ロディルの体が完全になくなってしまった後、けたたましい警報音が辺りに鳴り響いた。
この音は聞き覚えがある。だって、牧場に潜入するたびに聞いていた音だ。
「いけない! 自爆装置だわ!」
「爆破するなってボータさんがいってたよね」
「くそっ! 止めるんだ!」
慌てて最後にロディルが叩くように起動させた装置に駆け寄って起動するけれど、自爆装置を止めるためには入力しないといけないことが多そうだ。
読めなくはない。でも、理解しながら入力しては遅い。それでもなんとかしなければと、わたしとリフィルさんで動かしてみるけれど、残り時間に対して作業効率は最悪だ。
「無理です。私たちの中でこの機械をあつかえるのはリフィルさんとナギサさんくらいしか……」
「俺さまたちはテセアラ生まれでも、魔科学の仕組みなんざほとんど勉強しねえからな」
「わたしだって魔科学のことはわからないってば!……だめ、理解しながら操作してたら追い付かない!」
詳しい仕組みはわからないけれど、基本的な操作感覚はパソコンやタッチパネルの機械と同じだ。だからある程度なら動かせる。でもそれは、初めて触れる機能を解読しながらというのが前提だから、警報音が鳴り響く中では、とてもじゃないけれど間に合わない。リフィルさんのサポートに徹したって難しいし、かといって、彼女一人では追いつかない。
どうしよう、と焦りながらもなんとか操作を続けていれば、急に管制室の扉が開いて誰かが入ってきた。
そちらに目を向ける余裕はなかったけれど、みんながその人たちの名前を呼んだからわかる。ボータたちだ。彼と数人のレネゲードはまっすぐこちらに駆け寄ってくると、自分たちに任せろと装置に触れだした。
「我々が引き受けようぞ。お前たちは、そこの地上ゲートから外に出て脱出するのだ」
「ボータ! 無事だったのか!」
「そんなことは後でいい! 早く外に出ろ。お前たちがいては足手まといだ」
これまでも牧場で魔導炉を改造していたというし、わたしたちよりよっぽど魔科学に詳しいだろう彼らが三人がかりでやれば、きっと大丈夫だ。
安心してわたしは彼らに操作を引き継ぐと、みんなと一緒に地上ゲートへと向かう。ゲートの先はドーム状の天井の覆われた開けた場所で、そのまま外に直結しているわけではないみたいだけれど、少なくとももう海中ではない、と思うと少し気が楽になる。
ふうと息を吐いた瞬間、後ろにあった地上ゲートが閉め切られる音がした。へ、と振り返ると、ガラスのような窓越しに操作を続ける彼らが見える。
おそらく、自爆装置の解除のついでで、ここの扉が閉まってしまったのだろう。それだけなら、まだいい。けれど管制室の床がじんわりと揺らいだかと思うと、どんどん水が入ってきたのを見て、わたしたちは小さく悲鳴を上げた。
「大変だ! あそこのドアを開けてやらないと」
「だめだ! 開かないよ!」
「どけ!」
急いでロイドとジーニアスが扉を開けようとするけれど、魔科学で開閉される扉が手動で開くわけがない。
ならばとリーガルさんが窓を蹴りつけてみるけれど、やっぱり駄目だ。このような施設に使われるものがただのガラスなわけがないし、ヒビが入るどころかびくともしない。
その間にも彼らの膝下まで入り込んできた水にわたしたちはどんどん焦るけれど、管制室の中の彼らは動揺することなく作業を進めている。それを見て、リフィルさんは悲痛に表情をゆがめた。
「ボータたちだわ。水がくることを知っていて、わざと鍵をかけたのよ」
「どうしてですか!」
「扉が開けば、ここにも水が押し寄せてくる。ここは見ればわかる通り、天がドーム状に覆われているわ。水の逃げ場がないのよ」
「……私たちを……助けるため?」
「そんなのだめ! なんとかできないの!?」
「くそっ! 見ているだけなのか……!」
人が、じっくりと死ぬところを見ることになる。その恐ろしさに、恐怖やら悔しさやらで体を震わせていれば、不意に声が聞こえてきた。
ボータの声だ。たぶん、管制室の中にあるマイクを使っている。
『自爆装置は停止させた』
「ボータ! あの扉を開けろ! 俺たちで上のドームを破壊すれば……」
窓の前まで歩いてきた彼らの表情が晴れやかなのを見て、ロイドは息を飲んだ。
……悲壮さも、後悔も感じられない。やり遂げたとばかりの表情の彼らに、すべてを悟ってしまう。
彼らは、最初から。たとえこうして逃げられなくなっても、死ぬことになっても。それでも役目を果たすことを優先して、覚悟してここに来たのだと、わかってしまう。
『我々の役目は、大いなる実りへマナを注ぐために、各地の牧場の魔導炉を改造すること。それも、この管制室での作業をもって終了する。お前たちには、我らが成功したことをユアン様に伝えてもらわねばならない』
「そんなことは自分で伝えろ! いいから扉を開けやがれ!」
目の前にいる彼らを助けようと、ロイドは剣で切り付けるけれど、リーガルさんの蹴りを耐えるそれが彼の剣で壊れるはずもない。
その間にも水はどんどんたまって行って、少し高い位置にいるはずの彼らの下半身はほぼ水に浸かってしまった。ああ、だめだ。どうにもできない。どうしたらいい。目の前の人がじわじわと死に近づくそれに、心臓がばくばくと震える。
それでも泣きださないのは、泣きだせないのは、ひとえに彼らが笑っているからだ。
『真の意味で、世界再生の成功を祈っている』
ふ、と柔らかく彼が頬を緩める。ああ、彼、こんな柔らかい表情もできたんだな。今まで出会った時は、いつだって敵同士で……彼を倒そうとしていたのに、協力関係になって、わたしたちを助けてくれたと知ってしまったからには、もうダメだ。彼らが死ぬのを見たくない。死んでほしくない。
でもボータだけじゃなくて、彼の後ろに並ぶ名も知らぬレネゲードも、みんな、穏やかに笑いかけているのが、その口元でよくわかってしまったから。彼らのその覚悟を切り捨てることなんてできないから。何も、できないから。
せめてわたしたちは、彼らを見つめることしかできない。忘れてなるものかと、その笑顔を焼き付けるしか、できないのだ。
『ユアンさまのためにも、マーテルさまを永遠の眠りにつかせてあげてくれ……』
その言葉を最後に、窓の蓋が閉まる。
わたしたちが、彼らの最期を直視しなくていいように。
まるで……わたしたちの中に残る彼らの最期を、美しいままにするように。