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爆ぜる音は、戻ってきたパトリシアが投げたナイフが付加されていた魔法によって爆発した音だった。
アンジェリカを綺麗によけてクイラに届いたそれに、彼は顔をしかめながら大きく後ろに飛んで直撃を避ける。

「チャック・ザ・リッパー!」

続いてチャックの口から飛ばされた大量のナイフに、いくつもの擦り傷を作る。長斧の届かない遠距離からの攻撃の中で、クイラはアンジェリカの方を見た。うまく近付けないように繰り出されるナイフは、視界という意味でも本当に邪魔でしかない。
アンジェリカはジーンに素早く保護され、治癒魔法を受けていた。相変わらず体内を駆け巡る感触にほげぁと変な悲鳴があがる。
傷が治ることはさして重要ではない。もともとアリスは不死に近く、再生力も高い。先ほどの傷など、ジーンの力を借りずともすぐに治っただろう。それを理解したうえでクイラも攻撃をしているのだ。
問題はジーンとアンジェリカが合流してしまったこと。彼女一人なら、ハインリヒがいようが関係ない。同じように力付くにねじ伏せてしまえばいい。だがジーンは駄目だ。あれは強い。あれは、前向きで勇者を自称する彼女なんかよりもずっと。簡易的な感情だからこそ、強い。
クイラは隠すことなく舌打ちをして、ジーンとアンジェリカから視線を外すと代わりにパトリシアを睨んだ。

「パトリシアか…とオレは憎々しげに呟くぜ。」
「ふん、いくらあんたがパティ達を誰彼かまわず嫌う性分だからって、アリスでもないのにこんなの見逃せないかしら!」
「だからこいつはアリスだと…!」
「問答無用!ジーン!リィン!」

クイラの言葉を無視して叫べば、ジーンが一気に距離を詰めようと地面を蹴った。
傷の心配はもう無いが、アンジェリカは隅に待機させて、ハインリヒが守るように傍に立ち、クイラについてきていた魔物と対峙した。

「氷の1の魔法陣展開!氷結は終焉、刹那にて砕けよ…氷刃!」

パトリシアの投げた魔法陣から現れた氷柱が、クイラを標本にでもするかのように襲いかかる。先程まで町を襲う魔物と戦っていたとは思えないほどの威力だ。
しかしクイラは素早く魔法を唱えて、それを砕くように雷を飛ばした。

「我雷、爆ぜよ雷動!」
「紫電一閃!」
「ぐっ!」

横から雷を付加した剣で、ジーンがクイラの雷を相殺する。相殺しきれなかった一部は望み通り氷柱を砕いたが、同時に砕ききれなかった氷柱が腕に刺さり、顔を歪ませた。
鈍い音を立てて長斧の柄が剣を受ける。すると愉しそうに、クイラはジーンに強気に笑いかけた。

「久しいなジーン、アリスなんか守って…胸くそ悪いぞ。」
「だって約束したからね。それにあの子はお前が思っている以上に良い子さ…滅竜閃!」

ガチガチとなる互いの得物に笑い合って、同時に離れる。それに再び、今度はジーンだけに標的を絞って、クイラは詠唱を始めた。

「我雷、裁きを受けよ!」

何本もの雷がジーンの周り、そして彼自身に降り注ぐ。
だが同時に彼は自身に治癒魔法…多少攻撃を受けて集中力が切れようと関係ない、初級の…をかけ、意識をなんとかそこに留める。

「地の1の魔法陣展開!静かなる大地のざわめき…飛礫!」

そして、パトリシアよりも詠唱速度と威力がある分、どうしても大きくなってしまう魔法発動後にある体の硬直で動けなかったクイラに、パトリシアの魔法が直撃した。
地面に広がった魔法陣から昇る岩や石は、雷の属性を持つクイラにとっては不利なものだ。必要以上にダメージを食らい、思わずよろける。

「今よ!リィン!」

彼女の呼ぶ声が聞こえた。
それは、合図だ。
とどめを譲るという、合図。

「僕だって…僕だって!」

いつもの泣きそうな声で、叫ぶ。
目の前にいた魔物を切り払って、そのまま勢い良くアンジェリカから離れて。クイラに向かって走った彼は、だが持っていた双剣から手を離した。
同時にハインリヒの周りにゆっくりと風が集まる。
渦巻くように、逆巻くように、切り裂くように。それは彼を…彼が己の魔力で具現化した無数の刃を包んだ。

「静かなる大地にて風は吹き荒び、あまねく刃となりて天へと還る。」

刃は二本ずつ対になるようにクイラに切りかかり、風を巻き上げ、クイラの体を上空へと上げていく。一回、二回、三回…そして高く放り投げられた彼に、ハインリヒは、物凄い風圧の塊を一気に落とした。

「風殺流星群…!」




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