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アイシアはやはりというかなんというか、張り切ってアンジェリカ達をもてなしてくれた。
立派な夕食とベッドを与えられ、さらにひたすら好意だけを映した目をずっとむけられてどうしたものかとアンジェリカは居心地の悪さを感じていた。
さらにもう一つ、先ほどから突き刺さっている視線。恐怖はないが、やはり気になる。
「なあ、ジーン…」
「あはは…」
助けを求めてジーンの名を呼べば、彼も困ったねと笑う。じっと視線を向けてくるのはユーリウスだ。壁から物陰からずっと見つめてくる。
「彼はユーリウス。自己防衛だったかな?君が自分を守りたいと思ってる感情…とかだったと思うよ。」
「わたしよりも年下だよな?」
「たぶん。確か前に来た時はうちの団を全員倒してたからちょっと自信ないけど。」
彼は先ほど見たとおり銃を扱う。だが同時に魔術にも精通しており、アイシアと同じかそれ以上の威力の攻撃魔法を属性関係なく使うことができるという話だ。
子供のくせに強いなと驚いていれば、自分の話題になったのがわかったのだろう。ユーリウスが近づいてきた。
「自己防衛なんて本能だろ。強くて当然だ。」
ぶすっと頬を膨らませて鼻を鳴らす。
「あの…どうしてそんなにわたしを睨むんだ?」
「期待はずれ。」
「え、ええ?」
「お前、誰も殺せなさそうだ。」
「…殺されたいのか?」
「違う。でもアイシアは違うだろ。」
わざわざ殺されたいって言うんだから。
そう言われて黙り込む。ジーンも何も言わない。
でも、知っているたような気がした。こう問われるだろうと、知っていたような気がする。
昔に聞いた物語のように、どこかで聞いたことがあるような、そんな。
「おい、騎士。」
「なんだい。」
「お前の部屋に案内してやる。」
そちらが本題だったのだろう。アリスが来たことを喜んだアイシアがこちらにやってくるのを見て、ユーリウスは一人で先に歩きだした。ジーンもアンジェリカにおやすみと告げてそのあとを追う。
二人だけになって会話が生まれる、などということはなく、沈黙だけが二人の間を流れる。
子供用のいい話って何かあったかなあとジーンが記憶を探っていると、ユーリウスがおもむろに口を開いた。
「おい、騎士。」
「今度はなんだい。」
「お前は好きだったのか?」
好きだった?誰を。
ぱちぱちと目を瞬かせたのがわかったのだろう。ユーリウスはもう一度口を開いた。
「おれと同じで違う奴。」
「…ああ、なるほどね。そういえば彼女も一緒だったね。」
ユーリウスが言っているのは「何かを守りたい」と願った彼女だと気づいて思わず笑みがこぼれる。
守りたいと思った彼女はもう、いないのだけど。
「好きとか嫌いとか無いよ。俺の好きだと思うものの範疇に入ってるし。」
「どんな奴だった。」
自己ではなく他者を守りたいという彼女だって、よくこの教会に来ていたというのに、ユーリウスはわざわざジーンの意見が聞きたいらしい。
特に断る必要もないので、彼女をどんな奴だっただろうなあと思い出を探る。
ジーンよりずっと強くて、そして美しい人だったと思う。そういえばアンジェリカと同じで男のような口調で話していた。綺麗だけど適当に切ってそのままになった赤く長い髪をなびかせて、そしていつも、笑っていた。
「…どんな感情だって、それひとつだけでは存在しないってことを教えてくれる人だったよ。」
好きだと思って、守りたいと願って。
愛して、嫌いになって、隣にいてもいいのかと自信をなくして、自己嫌悪して、それでも守りたいのだと泣いて。
他の感情と混ざって強くなっていく感情だった。とても大切で愛しいものだったと思っていた。
「もう一度会いたいのか?」
「…うん。会えるなら、ね。」
そしたらきっと、自分よりもずっとうまくアンジェリカを守ってくれる。
そう微笑んでいると、ユーリウスはそっけない声で部屋についたと告げた。
「死んだくらいならって自分でも言ってただろ。魔物になったくらいならアイシアは治せる。もう一度生まれた感情はここに帰ってくる…だから終焉で、再生なんだ。」
どこにもいないしどこにもいる。だってなくなるなんてことはないから。
そう呟いて立ち去っていく子供の背中を見送って、ふふっと笑う。
まるで励まされているみたいだと扉に手をかけて、そして。
ちらりと視界の端にユーリウスとは違う少年の影を見たような気がして、ジーンは動きを止めた。
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