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そこに彼女は、いた。
壊れた人形。鳴りやまないオルゴール。塗装の禿げた玩具と掠れた絵本と、カタカタと風に回る車輪。ガラクタの山の上で、細い金の鎖で雁字搦めにされた真っ白な翼を持った彼女は目を覚ます。
頭上を覆う大樹の隙間から見える空が青い。風が気持ちいい。傍らに転がるガラクタを一瞥して、彼女は思うように広がらない翼で飛ぼうとして…そのまま、地に落ちる。嫌な音が響くが、痛みはない。よく見れば手首も足も金の鎖が絡みついている。露出の多い白と金の服がそれをより目立たせていて、彼女はそっと溜息を吐いて起き上った。 叫ぶ声がする。泣き声。それはどこからだろう。
ガラクタの中、人影が見えた気がしてそちらにゆっくりと歩いていけば、その先にはほほ笑む幼い少年がいた。
穏やかに。穏やかに。どこか狂気じみて見えるほど、穏やかに。ほほ笑む彼の瞳は、彼女を映しているようでうつしてなどいないように思えた。

その向こう。少年の背後の、その向こう。
頭上を覆う大樹の幹があって、その根元。
そこに眠る少女を見て、ああ、と、彼女は自分の体が歓喜で震えるのを感じた。嬉しい。ああ。愛しい。果てない愛しさが込み上げて、自然と笑顔が零れる、そして同時に、少女を殺すだろう少女を思う。
涙が溢れる。歓喜に震えた体から、はたはたと。
ゆっくりと近づいて、少女の姿をきちんと確認すれば、もう涙は止まらない。ただ流れて、落ちて、地面をぬらすだけ。その中にあるだろう感情は何もわからないまま、ただ、落ちる。

「はやく…ころさないと。」

少女は。天使は。
涙を流しながらも恍惚に満ちた笑顔でそう囁いて、眠る少女にそっと口づけた。

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