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「…っ…」


暗闇の中で、アーリアは目を覚ました。

僅かな潮の香りと土の匂い。
少し前の記憶と体を動かせば当たるゴツゴツした感触に、自分はどうやら瓦礫の中に閉じ込められているようだと判断する。

港の板が上手く瓦礫との隙間を生み出したらしい。
何かに乗り上げているのか上半身は浮いているが、体の半分が海に浸かってしまっているのを確認してアーリアはため息をついた。


「お目覚めかい?」

「!」


耳元で声がして、思わず武器を構えようとする。
しかし刀はどこかへ行ってしまったようで何もない。
しかも声は自分の真下…つまりは自分が乗り上げているそれからしている。

暗闇の中で目を慣らそうと目を凝らして、自分の下にあるそれがライノルズなのだとようやく気付いた。

どうやら意識を失う直前に感じたあの腕を引かれたような感覚は、彼が腕をひいた事による物だったらしい。


自分と違って体のほとんどを水に浸からせた彼に、アーリアはだが礼を言うでもなく皮肉気に笑った。

自分と彼がここにいるということは、つまり。


「最初から、こうして私を引きつける事が狙いだったわけですね。」

「そうだよ。今回の主役はあくまでラル坊だからね。ヴェルちゃんそんなに強くなんかないし。」

「私はあくまであなたの道具、ですか。」


昔から今でも、それは変わらない。
何も変わらない。
彼に取って大事なのは、いつだって自分ではない。

改めてそれを形にして示されたようで、アーリアは静かに唇を噛み締める。

なんて、最悪な奴だ。


「あの頃と何も変わらないんですね。」

「そんな簡単に変わらないよ。なに?変わって欲しかった?」

「いいえ。ぜひそのまま最低な奴でいてくださいな。その方がいっそ殺しやすいですから。」


首に爪を立ててみる。
当然、伸ばしているわけでもない爪なんかでは殺せる筈がない。
あの頃から変わらないのは自分もかと、自嘲めいた笑みを浮かべる。

するり、頬に何かが触れる感触がした。
まだよく見えないが、恐らくライノルズの手だろう。

それはアーリアを確認するようにゆっくりと頬を撫でて、そうしてどこか不安そうな声で小さく小さく、訪ねた。



「…しあわせ?」



ひゅ、と、息をのむ。

その問い掛けの真意がわからない。
僅かに震える指の意味がわからない。
悔しいくらいに、わからない。


「…最低。」

「…そっか。」

「最低、です。」


ドン、ドン、ドン。
武器が無いから、なんとか動くスペース内で精一杯に腕を振り上げてライノルズの胸を叩く。

誘拐された事が憎い。
道具にされた事が憎い。
置き去りにされた事が憎い。


「最低、最低、最低、最低、最低…っ」


ドン、力強く、叩く。


「さい、てい…!」


それでも好きだなんて、最低。