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ギュッと少し小さい黒手袋をはめながら、アーリアはじっとアルヴァートを睨む。
美しく飾り立てられていた食堂は既にボロボロになっており、辺りには穴の空いたテーブルや破れた布が散乱している。
未だに互いに致命傷は与えられていない。
アーリアにとってそれは愉しい事この上ないのだが、そろそろ他の場所に散らしていた海賊の仲間達がやって来てしまうだろう。
もともと今回は違う海賊を目的にしていたのでさほど人を連れてきていないのだ。
彼女にしてみれば本命がかかったという感じなのだが、どちらにしろ今回は運が無かった。
ゆっくりと息を吐いて、先程のアルヴァートの言葉を繰り返す。
「最近…ああ、ひょっとしてホルスの偽善者様が連れてた“人魚”の事ですか?」
「なんだ、知ってんのか。」
彼女の表現に多少の違和感を感じながらそれに頷く。
ああやっぱり、と面倒くさそうにため息をついた彼女は、僅かに刀を下に下ろした。
「困るんですよね、慣れない人攫いなんてされると。特にあのオジサマうるさくて。絶対見つけて保護しろと毎日毎日…」
うんざりだと顔を歪める彼女に、思わず苦笑してしまう。
なんだかんだアーリアの事は気に入っているのだ。
当のアーリアはすっかり刀を下ろしてしまうと、少し首を回してそっと息をつく。
「でも良かったです。居場所はわかりましたから、これであなたを追いかける為に使えるお金が増えそうですよ。」
「じゃあ俺に感謝しろよな。」
「それは嫌ですね。」
薄く笑って、ちらりと外を見る。
そこにあるのはアルヴァート達の船だ。
暗いそこにぼんやりと見えた小さな影に、アーリアは深い笑みを…と言っても、目は全く笑っていないのだが…浮かべた。
「だって、増えるのは保護した功績からですから!」
ガッと勢い良く近くのテーブルを蹴り上げて、アルヴァートの意識を逸らす。
アーリアが構えを解いていた事もあって簡単にそちらへ視線を向けてしまったアルヴァートの横を一気に駆け抜けた。
「やべ…っ!」
反射的にその背中に向かって発砲するが、それをキチンと読んでアーリアは走る。
発砲した際に空いた距離は、その後すぐに走り出してもなかなか埋まらない。
彼女は身軽にアルヴァートの船へと飛び移ると、そこに立っていた小さな影…ラルドの前の縁に着地した。
「…っ!」
「初めまして、人魚様?」
にっこり、笑う。
向けられたのは笑顔のはずなのに、何故か体がすくむ。
アルヴァートや船員のみんなとは全く違う笑顔に、ラルドはただただそこに立っている事しか出来なかった。
ゆるり、手袋をはめた手が頬を撫でる。
「あなたを、連れ去りに来ました。」