12
「ラルド…っ!」
「撃っちゃダメですよ。」
ぐいと、アルヴァートに良くわかるようにラルドを刀で抱え込む。
今にも泣き出しそうに息を飲んだ彼に、アルヴァートは構えた銃を撃つのをぐっとこらえた。
撃てばラルドに当たる。
うまく避けたとして、アーリアの持つ刃がラルドに傷をつけるだろう。
どうにもならない状況に、自然とアルヴァートから余裕の表情が消えた。
「…ラルド、なんで外に出てるんだよ。」
「…ご、ごめんなさ…」
「アイツまくの簡単だから、まあ仕方ないか…」
はあ、と大きく息を吐いて気持ちを一度落ち着ける。
そうしないとラルドにキツく当たってしまいそうだと深呼吸してから、両肩をすくめてアーリアを見た。
彼女は強気の笑顔を浮かべたまま、遠くに見えるボートに向かって刃の輝きで何かのサインを送っている。
「おいツィーツィラ、そんな小さい子に刃向けたら危ないだろ。」
「大人しくしていただくために仕方なくやっているんです。このままあなたへの脅迫にも使えそうですが…それはつまらないので止めておきますね。」
にっこり、笑う彼女に本当に性格悪いと呟いて、近付いてきたボートに乗る彼女の仲間に舌打ちをした。
このまま豪快に逃げて行くつもりらしい。
海賊じゃなくてお前らが逃げるのかよと奥歯を噛んだ。
「…ハ、全く、ツィーツィラさんは本当に手段選んでくんねぇなあ。」
「褒め言葉として受け取りましょう。迎えが来ましたので、失礼しますね。」
「ひぅ…っ」
「っラルド!」
バッとボートに飛び移ろうと浮いた僅かな瞬間に、アルヴァートは彼女の腕目掛けて銃を撃った。
同時に自身も飛び降りて、ラルドに向かって手を伸ばす。
避ける事も弾く事も出来ず、反射的に緩んだ腕から存外あっさりとラルドは解放されアルヴァートの腕の中にがっしりと支えられた。
ガッとアルヴァートは自船の縁を掴み、アーリアはボートに受け身も取れず倒れ込むように着地する。
「…!」
「姉さま!」
ボートに乗っていた青年が、アーリアを見てアルヴァートに銃を向けた。
片手で縁を掴み、片手でラルドを抱える彼は当然反撃も回避も出来ない。
だが彼はニッと笑う。
「船長!」
声と同時に銃声が響く。
客船の一室からカタリーナが身を乗り出して、自分の船長を守るために撃ったのだ。
青年より先に発射されたそれは彼の腕をかすめ、彼の射撃の起動を逸らした。
無理やりに逸らされたそれはアルヴァートの肩を掠めるだけに終わり、そのまま進んでしまったボートのせいで狙う事が不可能になって、思わず舌打ちをした。
「…」
「姉さま、大丈夫ですか!?」
「…大丈夫です。このまま帰りましょう。」
声だけは冷静に返して、アーリアは船を睨む。
ぶらんとぶら下がったままのアルヴァートはカタリーナに軽く礼を言って帰ってくるように声をかけた。
自分も片手だけでなんとか登ろうとして…ふと、ラルドを見た。
震えている理由は恐怖か後悔かはわからない。
だがとにかく言いたいたった一言だけを口にするために、アルヴァートはそっと名前を呼んだ。
「…ラルド。」
「、あ、」
「頼むから、危ない事しないでくれ。」
呆れたように息を吐きながらの言葉に、ラルドはぎゅうっと自分の服の裾を握り締めた。