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「…鐘を鳴らしたのは、やはりあの海賊くんか。」


現れたフォルキシアの姿に、ラルドを庇いながらヴェルディはキッと彼を睨んだ。


「ラルドを置いて行ってもらおうか。」

「ほんなん聞けませんなぁ。」

「そうか。ならば仕方ない事だな。」


カチャリ。
軽い音を立てて、さして大きくない一般人向けサイズの銃を構える。

ヴェルディは盾にするように長斧を構えるが、そんなもの気休めにしかならないだろう。
そうわかっていても、僅かなそれに頼るしかなかった。


「幸福の子供は、あまり翼を持たない者に近付きすぎない方がいい。失う時、それは後悔にしかならない。」


無表情に淡々と紡ぐ言葉は、まるでそれ以上の真実など存在しないと語っているようで。
ヴェルディはそれに、幼い彼を思い出して場違いにも笑った。

くすくすくすくす、笑い出す彼女に、フォルキシアはもちろんラルドも首を傾げる。


「…なんや、あんたも昔のアルヴァートと同じで終わりばっか考えよって。知らんのね。」

「何をかね。」

「みんな、誰かを幸せにするために生まれてくるんじゃって事。」


当たり前のように、彼女は答える。

フォルキシアが当たり前に終焉を説いたように、ヴェルディは当たり前にそれを答える。紡ぐ。


「生きる理由なんか、そりゃあ誰か以外にも沢山あるけどな…ほんでも、それって最終的に誰かの為になる。みんな誰かを傷付けて幸せにして傷付けられて幸せにしてもらって。ほうやって繋がるんじゃ。終わりなんか来ない。じゃけぇ、ほんな閉鎖的に考えんでも…」

「それでも、泣いた。」


淡々とした声で、フォルキシアはそれを遮った。

彼の脳裏に浮かぶのは、やはりたった一人だけで。
そのたった一人は、誰かの幸福を願いながら自分を見捨てる事も出来ないで。
彼の記憶の中で、一人笑った。

泣きそうに泣きそうに…笑った。


「確かに、いつか出会う誰かと幸せになれるだろう。だが“いつか”の“誰か”と過ごす時間が無いんだ。そして続かない事が怖くなる。それなら儂は、最初から…最初から一つの世界だけを与えたい。」


そうすれば、最初から最後まで幸せだ。

パンっと軽い音が響いて、ヴェルディの肩で赤が散る。
フォルキシアが撃ったのだ。

思わず小さく悲鳴を上げたラルドの腕をグイッと引っ張り、フォルキシアはまた優しく笑う。
優しく穏やかに笑って、諭すようにラルドを見つめる。


「ラルドくん。君はある意味希望なんだ。幸福ではなく不幸を撒き散らす子。人魚にも天使にも人間にもならなかった子。君なら辿り着ける。彼女が至れなかった場所にきっと。」

「フォルキシア…」

「やがて海軍の者達が来るだろう。痛い思いをする前に、儂と…」

「ああ、悪かったな。」


ガキリ、と、彼の頭で鳴った音がやけに鮮明に聞こえる。
鳴り響いた銃声と彼の姿の向こうに現れた“彼”の顔が、やけにクッキリ映る。

にぃ、と持ち上がる唇の端に、響く音に。
彼はそっと、泣いた。


「もうみんな、片付けちまった。」