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子供の笑顔を見るのが好きだった。
これからたくさんの事を感じて成長していくであろう彼らの笑顔が、大好きだった。


「ホルス様、どうかおじさまを向こうに引き留めてくれませんか。」


そう微笑んだ少女の事を、フォルキシアはまだはっきりと覚えている。

フルルユアのルーリに住まう幸福の子供。
幸福を愛し、幸福に愛された、もうすぐその生を終えようとしている少女。


彼女の申し出に、困惑を隠す事が出来なかった。

彼女が前に言ったのだ。
彼が自分を幸せにしてくれるのだと。

弱っている今、余計に会いたいだろうに、何故。


「何故だ?もうこんなに弱って…!」

「だからです。今おじさまに会ったら、後悔してしまいそうだから。」


何故、そんなにも穏やかに笑うのだろう。


「一緒に居て幸せだったのに。これからもそれが続かないなんて。それなら最初から出会わなきゃ良かったって、思ってしまいそうだから。」


そこにあるのは、なんてことはないただの祈りで、願いで。
自分が今まで関わってきた幸福の子供達が決して口にしなかった、死への恐怖。

嗚呼、彼女はそれを解放と思っていない。
思わないような、ちゃんとした人生を歩んで来たのだ。


「ごめんなさい。ルミナリエは弱虫なんです。こんなんじゃおじさまに嫌われちゃうのに。ごめんなさい、ごめんなさい…」


泣かないで欲しい。
そう願った。
だって、それはちゃんと生きたんだっていう証なのだから。

それでも、それが彼女を苛めるのならば、と思えば結局彼の足止めをしてやることしか出来なくて。

それなら最初から、子供達が幸せに過ごせる場所を作ってやりたいと思った。
同じ幸福に愛された子供達だけの場所。
彼らが決して道具にされる事なく愛される場所。

そんな場所を、作ってあげたかった。



「儂は…君を…」


手を伸ばす。
朦朧としてきた意識の中で、もう遠い彼女に届くように。


「しあわ…せ…に…」

「幸せだよ。」


ぎゅ、と、手を握られた気がする。
流れ出ていく赤に、フォルキシアの感覚はもうほとんど残っていない。

でも確かに温もりを感じて、声が降ってくるのが聞こえる。


「一緒に居て幸せって言ってもらえて。それだけで、幸せだった。思ってもらえるだけで、十分に。」


そうなら、嬉しい。
そうなら、幸せだ。

少しでも、君を幸せにしてあげられたのなら。


「それは、まるで…」


くしゃり、笑った。
笑って、手を握り返そうとして指を僅かに動かし、そして…


「奇跡みたいに、幸せな事なんだ。」


ふ、と、力が抜けた。
さよならを、した。