13
トントン、と指で机を叩きながら、アーリアは報告書の束に目を通す。
「姉さま、あの…」
「なんですかオシリス。」
明らかに不機嫌な声。
目的だった海賊も捕まえられず、発見した保護対象も連れて帰れなかった事が随分と気に食わなかったらしい。
アルヴァートの船を逃すのは案外よくある事だが、それ以外の部分が許せなかったのだなと、オシリス…アーリアをボートで迎えに来たあの青年は、その空気に飲まれないように自分が持ってきた書類に目を落とした。
「えっと、AAAの船を追跡するための費用が予想通り増えたのと、怪我人の状況の報告をしようと思って。」
「そうですか…ところで頼んでいる人捜しはどうですか?」
「そっちは、全然…」
苦笑するオシリスに「そうですか」と小さく呟いて、アーリアは窓の外を見た。
相変わらず空と海しか無い景色に、思考を切り替えろと頭を振る。
そして強く…強く強く、前を見た。
「まぁ、向こうにもダメージは負わせる事が出来ましたし…これをどう次に繋げるかが問題ですね。」
*
「いっつ…ディラン、それ痛いっす。」
「怪我するのが悪いんらよ。それともノイズにしてもらいたい?」
「ディランさんよろしくお願いします!」
船の一室に作った医務室で、ディランは怪我人の手当てをしながらずり落ちた眼鏡を直した。
ぽやぽやしていて滑舌も悪い彼だが、意外にも船医として船に乗っているのだ。
まあ彼自身戦いに出てそれが出来なくなる事が多いので、最近はライノルズが担当する事が多いのだが。
わざと痛くする事で有名な彼は、ディランの手元を見ながら「あはは」と軽く笑ってみせた。
「別に僕がやったげた方が痛くてすぐ終わるのに。」
「それが嫌だってんだよこのバカ。」
ゲシッとライノルズの腰を蹴って、カタリーナは乱暴にベッドに座る。
がしがしと長い髪の毛を掻き乱す彼女は明らかに不機嫌だ。
明らかに自分のせいなんだろうなぁとなんとなく理由を特定しておきながら、ライノルズはわざとらしく理由を聞く。
「…リーナちゃんでば随分不機嫌。なぁによ、どうしたのさ。」
「アンタの事情がわかってる分何も言えなくて腹が立ってんだよ。…坊やはどうしてんだい?」
眉をひそめて聞いてきた彼女に、ディランも怪我した船員もライノルズの方を見た。
彼は一つ、静かに息を吐いてわざとらしく笑った。
「船長の所だよ。健気にも救急箱持って、ね。」