15

嗚呼、どうか。


「そんじゃーここ寄った後はそこ降りて…こういう海路になんのか?」

「そういう事だね。ちょっと大回りになるけど…ま、その方が彼女的にはいいんじゃない?」


甲板にある樽の上に座って海図を広げるアルヴァートとライノルズ。

他の船員達はそれを特に気にするでもなく自らの仕事を行っていたが、約一名。こっそりとと二人の様子を伺う影があった。

それは船室入り口の左側からそっと覗き込んでおり、明らかな警戒と葛藤が見てとれる。
今すぐ二人…というか船長の所に行きたい、だが怖い、だがしかし、といった感じである。

もちろんそんな視線に気付かないわけもなく、アルヴァートはにっこりと笑って手を振った。
途端にさっと隠れてしまう彼に、ライノルズはくっくっと笑いを零した。


「ラル坊、随分懐き始めたんじゃない?」

「そうかな。だといいんだけど。」

「少なくとも引きこもったりシーツ被って威嚇する事は無くなったでしょ。十分進歩だよ。」

「このまま「子連れ海賊」として有名になったり出来ねぇかなあ。なんかかっこよくね?」

「ははは、かっこ悪いよ。」


そう言葉を交わして、アルヴァートは影に隠れてしまったラルドの下へと歩く。
しゃがみこんで自分が渡した人形をぎゅうっと抱き締める後ろ姿に思わず頬が緩む。

からかうように、だが優しく声をかければ彼は大きく体を跳ねさせた。


「ラールド。」

「っ!」


そのままキョロキョロと隠れる場所を探すが見つからず、困ったようにアルヴァートを見上げる。

だがやがて決心がついたのか強く目を瞑って、ぎゅっとアルヴァートの服の裾にしがみついた。
必死に掴むその様子に思わずだらしなく顔が緩むが、なんとかラルドの頭を撫でるだけに止める。

確かに少しは懐いてくれたようだ。
ここで怖がらせてはダメだ我慢我慢と言い聞かせながら、ヒョイとその小さな体を抱き上げる。


「な、なに。」

「いや、そろそろ着くからさ。お前ちっさいから見えにくいかなって。」

「…ちっさくない。」

「ちっさいだろ。俺がお前くらいの時はもうちょいデカかったぞ?」


実際にラルドは11歳にしては小柄で、船の中を歩き回ると顔が少し縁から出る程度しかない。

彼自身わかっているのか、むーと頬を膨らませながら帽子をぎゅっと押さえた。
ラルドが見せる“恐怖”以外の子供らしい反応に、アルヴァートは笑い声を上げる。


「拗ねてないでほら見ろよ、ラルド。」


そう彼が指した場所には、いくつもの船が集まっていた。
船と船を吊り橋で繋ぎ、小さな小舟と桟橋とを組み合わせて出来た港に船の上に建つ家々。

まさしく船で出来た街に、ラルドは思わず息を飲んだのを見て、アルヴァートは自慢気に言葉を紡いだ。


「あれがベレン領の、セトゥーナだ。」