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この世界に陸は存在しない。
人々は海の上に船という大地を作るしか生きる方法が無くなり、作り上げたのがこの船の街だった。
それぞれでコミュニティを作り、一つの街を中心として新しい街を作っていく。
それはやがて五つの大きな領船に別れ、今の世界のルールを決めていた。
「その五大領船の中でもベレン領は和やかな場所でさ。芸術とか商業方面に特化してんだ。」
「そんれ今はちょうろ祭りのシーズンらから、ちょっと寄ってこーかってなったんらよね。」
説明するアルヴァートとディランの話を、ラルドはアルヴァートの影に隠れながらもきちんと聞く。
彼らの予想通りそれらは初めて知る事らしく、興味津々といった感じだ。
先程からあちこちをキョロキョロと見回していて、人の多さにも驚いているようである。
そんな幼子の様子に二人は笑って顔を見合わせた。
もちろん二人共いつもよりラフな格好で、アルヴァートに至ってはキチンと帽子も脱いでいる。
「ほら、ラルド。」
「!」
ぽす、と頭に何か乗せられて反射的に体を固くする。
だが、柔らかい感触と目の前に振って来た花びらに恐る恐る触れば、それが花冠だとわかる。
見ればアルヴァートもディランも頭に同じ花冠を乗せているから、恐らく同じ物だろう。
「さっき配ってたんら。ほら、オレとセンチョとお揃い。」
「お前そういうの似合うなー。」
サラリ、頬を撫でられて、ラルドは顔が熱くなるのを感じた。
初めてだ。こんな真っ直ぐな好意は。
動揺して、とにかく見られたくなくて顔を自分の腕で隠そうとするもアルヴァートの手が邪魔で隠しきれない。
「〜っるさい、見るな!」
「ハハハッもー可愛いなー」
「リナも一緒に行動すれば良かっらのにね〜」
仕方なしに声を上げたラルドに、だが二人はふにゃりと顔を緩めてその頭をわしゃわしゃと撫で回し始める。
完全に小動物を相手にする顔だ、と膨れながらもされるがままになっていたが、そのうちやっぱり恥ずかしくなって来て、彼はパッと踵を返した。
「よし、じゃあ次は…ってあれ、ラルド?」
それは運が良かったのか悪かったのか丁度二人の手が離れたタイミングで、ラルドはそのまま止められる事なく街へ走り出してしまった。
一人で。
それを認識するのが遅れた二人は一回顔を見合わせて、大変だと慌てて走り出した。