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「まったく、心配したんらからね!」
二人が船に着いて聞いた第一声はこれだった。
闇雲に探すより待機する方法を選んだらしいディランがぺちんとラルドの額を叩く。
それから「迷子札作る」だの「次はお尻叩く」だのとお母さんみたいな事を30分ほど言い続けて、最後にもう一度額にデコピンした。
「今回はセンチョと無事に会えたからよかったけろ、もう一人れ行ったららめらからね!」
「は、はい…」
ぷんすかという擬音がぴったりな様子で中に入っていくディランに、周りからは和やかな笑い声がもれた。
どうやら彼の基本的なお説教スタイルだったらしい。
何故か一緒に座らされていたアルヴァートもくすぐったそうに笑いながら、ぽんぽんとラルドの頭を撫でた。
「心配してたってさ。」
その言葉の意味に気付いて、ラルドはグイと帽子を引っ張る。
この男は、つまり、俺の言った事は本当だろ?と言っているのだ。
ちゃんと愛されてるだろ?と。
認めちまえよとにっこり笑うアルヴァートになんだかお腹の下の辺りがくすぐったくなって、ぷいとそっぽを向いた。
その視線の先で、ディランは他の船員と共に何やら話している。
どうやら何かしらの事でからかわれているようだが、声はよく聞こえない。
滑舌の悪い、眼鏡の男。
ラルドが目覚めて一番に話しかけてきた彼は、確かに最初から好意的だったと、今なら冷静にそう思える。
「ん?ろうしたの、ラル。」
「あ、えと…」
じっと見ていたものだから視線に気付いたらしい。
首を傾げて近付いてきたディランに、ラルドは隣のアルヴァートの影に隠れようとして、だがそれをぐっと堪えるように目を強く瞑ってディランを見上げた。
それから小さく、下手すれば波の音でかき消されてしまいそうな声で呟く。
「でぃ、ディラン…」
「うん、なぁに?」
こてん、と首を傾げて笑うディランに、ラルドはぽぽぽ、と顔を赤く染めた。
なんてことはない仕草が嬉しかったらしい。
嬉しそうに顔を染めたまま、ラルドは次の言葉も紡いでいく。
「な、なにかお手伝い、する。」
「ほんと?じゃあそれ持っれくれる?」
「わかった。」
ててて、と彼の後ろについて小走りに歩き出したラルドの背を見て、アルヴァートは温かい眼差しを向けた。
このままここに溶け込んで行けばいい。
そう思った。
「ディランとラルドの組み合わせってすごい和むと思わないかいアヴァン。」
「思うが鼻血出す程は思わないな。」
だがカタリーナのようにはならなくてもいいかなと思った事は内緒にしなくていいだろう。
今日も平和な海賊船であった。