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オシリスはチッと舌打ちすると、すぐに自分の銃を抜いて背後のカタリーナに向けて撃った。
大きく後ろに跳んだ彼女を追って数発撃ち込み、同時にアルヴァートに威嚇する。

二人とも海の中を通って来たらしい。
濡れているにも関わらずしっかりとした動きで弾を避け、合間合間に反撃してくる。


「なんだ、思ったより根性ありますね。女の海賊なんてただのバカかと思ってたよ。いや、二人だけみたいだし変わらないか。」

「舐めんなよケツ。女だからこそ意地もプライドも高いんだ。」

「け…!?」


はんっと鼻で笑ったカタリーナの言葉に、オシリスはかああっと顔を赤らめた。
半分泣きそうになった顔で彼女を睨み、懐からもう一丁の銃を取り出す。


「誰がケツだ!」

「ケツで十分だろこのガキ!」

「っのクソ女あああ!!」


ドゥンドゥンとカタリーナを捉えようと銃を乱射させる。
しかしカタリーナはそれを最低限の怪我だけで済ませて自分もオシリスに向かって撃ち込む。
他に船上にいた軍人達はギリギリの所でそこから離れて、物陰から応戦した。

完全にノーマークとなっていたラルドの縄に、カタリーナが撃った弾か当たってパラリとほどける。
それは意図的なのか偶然なのかはわからないが、チリリと感じた痛みにラルドは結局そこに座り込んだ。


「っつか、完全にがら空き!」

「ぅわ…っ」


ガツンと背中を蹴り飛ばされて、オシリスは大きくバランスを崩したまま階下へと落ちた。

その隙に、カタリーナは落ちてきたオシリスに怯んだ他の彼らの腕に一発ずつ弾を撃ち込む。

そして蹴り落とした本人であるアルヴァートは、一緒に飛び降りてオシリスの頭に銃を突き付けた。

完全に勝敗がついた瞬間だ。
ニッと笑うアルヴァートと対照的に、オシリスは悔しそうに歯噛みした。


「…っ」

「わりぃな軍人さん、でも“あれ”は俺の物なんだ。誰にも奪いさせやしねぇよ。」


そう宣言する彼はまさしく“海賊”そのもので、オシリスは小さく舌打ちをする。

その態度に軽く笑って、アルヴァートは先程彼を蹴り落とした場所を見上げた。
そこに途方に暮れた顔をしてしゃがみ込むラルドの名前を呼ぶ。


「ラルド。お前が不安で疑うなら、何度だって言うぞ。“ラルド”は“アルヴァート”の物だ。そこに幸福の云々なんか関係ない。」


強い口調強い意志。
再び向けられた笑顔に、ラルドはまたふにゃりと眉尻を下げて、だが泣くまいと涙をこらえてゆっくりと立ち上がる。

手すりによじ登る彼に、アルヴァートは更に笑みを濃くした。


「来い、ラルド!」


…帰る場所は、ここだ。

さして高くないそこから飛び降りて、ラルドはアルヴァートにしっかりと抱き止められた。