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「…それで、逃がしてしまったと。」

「申し訳ありません…」


アルヴァート達とは別の海賊船から縄に繋がれて降りてくる海賊達を見ながら、アーリアはため息をつくでもなく無表情に肩をすくめる。

そんな彼女にオシリスは放置される方が辛いとグッと目を瞑り、その後ろから「ゼッハッハッ」と変わった笑い声が近付いてくるの度にアーリアの纏う雰囲気が不機嫌になっていくのを感じた。


「ま、AAAは地味に厄介な奴なんだ、軍曹殿の小隊だけで捕まるわけないだろうなぁ。」


そうズカズカと歩いて来たのは二人組の男だ。
何故か斜めに切りそろえられた前髪の男…シェント・リズナートと、その数歩後ろを歩くコートを着用したエルトゥリ・グローカス。

自分達の上司がこんな海賊狩りの現場に来るだなんて、と周りが息を飲む中、アーリアは全力で嫌な顔を浮かべてみせた。


「…これはこれは。リズナート少将にグローカス大尉。わざわざこちらにくるなんて珍しいですね。前髪を斜めに切る程ですからお忙しいのかと思っていましたが、お暇だったんですか?」

「お前な…ホルスに釘差された直後に海賊狩りの遊びに出た部下を叱って来いって言われてよぉ。お前らは相変わらず、FRを探してんのかぁ?」


FR、と聞いて、アーリアはピクリと反応する。
何か言いたげに口を開いて、だが静かに目を伏せるだけに留めた。


「…私は…」

「ちくしょう、終わってたまるか!」

「っ姉さま!」


突然声が響いて、オシリスが叫んだ。
縄に繋がれていた海賊の一人が、縄を隠し持っていたナイフで切ってアーリアに向かってきたのだ。

だがアーリアは振り返る事すらせずに刀を抜き、そしてそのまま切り捨てた。


「…恨み言なら、後でいくらでも聞いて差し上げますよ。牢獄の中で、ですが。」


静かに呟いて、刀を払って血を飛ばし、部下達に指示をとばす。
そして一連を面白そうに眺めていたシェントを睨み付けるように向き直った。


「リズナート少将。私がここにいるのはあくまであの人を探す為です。あなたの前髪と違って、斜めに逸れるつもりはありません。」

「お前マジ不敬罪で突き出すぞ。」

「どうぞご勝手に。そしたら全員皆殺しにでもして脱走します。」


迷いの無い言葉と態度に、シェントはガリガリと頭を掻く。
それから大きくため息をついて、くるりと踵を返した。


「…ま、いいか。お前のそれは昔からだしな。次からは俺も参加するっつー意思表示に来ただけだぁ気にすんな。事前に言わなきゃお前ケチつけてくるからなぁ。行くぞエルトゥリ。」


ぺこりと律儀に頭を下げるエルトゥリを連れて歩き去るシェントを見送って、アーリアは深く帽子を被り直した。

そして小さく、小さく小さく呟く。


「…まだ、一緒なんですね。このまま、置いていかないでくれればいいのに…」