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「ちゃんと言ったれしょ!一人で行ったららめらって!せめて一言言わなきゃらめれしょ!」


陽が昇った船上で、ディランがお説教する声が響く。

ずり落ちた眼鏡を直す事もせず、ラルドに正座させて早一時間。
ディランはよくそんなにネタが出て来る物だという程小言を言い続け、途中足の痺れで集中力が途切れたラルドに軽めだがデコピンを食らわせる。

周りの船員達も最初こそ微笑ましそうに見ていたが、ここまで来るとそろそろ庇ってあげたくなる。
実際、カタリーナがディランの肩を叩いた。


「まーいいじゃないかディラン、坊やは無事だったし…」

「よくない!そうやって甘やかしてばかりじゃいけないんらよ!大体リナもセンチョもなんれわざわざ海を泳ぐのさ!」

「成り行きで…」

「成り行きれ風邪れもひいたらろうするの!リナは薄着なんらからちゃんと気を付けなさい!」


肩を叩いた結果、彼女まで怒られる事となった。

その様子をケラケラと笑いながら見続けたライノルズは、痺れで涙目になって来ていたラルドの傍の椅子に座って彼に話しかける。


「それで?ラル坊はなんで一人で降りたの?」

「…お婆ちゃんが、困ってたし…」

「お兄さんせめて一言ほしかったな〜」

「だ、だって…」


ぐず、と鼻を啜って、ぎゅうと服の裾を握り締める。
そして、涙をこぼすまいと力みながら言葉を発した。


「だって、アイツみたいにって思って、いっぱいいっぱいだったんだもん…っ」


その姿に、パンっという音と共にカタリーナの鼻から赤い色が散った。
それは美しく舞い散る花のようにディランの顔に降りかかり眼鏡を染め、彼と彼女の顔を伝う…要するに、鼻血を勢い良くディランに噴き出したのだ。

それと同時にアルヴァートはラルドを抱き締めて、真剣な顔でその頭を撫でる。
しかし見ている方向は定まっていない。


「聞いた?聞いた?俺の真似とか今の可愛い発言聞いたかおい聞いたか。」

「きききき聞いた聞いた。聞いたからあががががが可愛いいぃぃぃいいい!!」

「ちょ、鼻血とか止めてくらさいカタリーナさん。」

「だっておまなにあの生物可愛いなにあれアタシ死ぬ死ねる。」

「わかったから鼻血止めてくらさい。」


思わず遠い目をして眼鏡を拭くディランの代わりに、数人の船員達がカタリーナの鼻を押さえようと集まってくる。
だが随分とテンションが上がったらしい彼女はそんな彼らの背中をバシバシと叩いて落ち着く気配がない。

一方で随分と地味にテンションが上がっていたアルヴァートは大分落ち着いてきたらしく、ペンとラルドにデコピンをした。

それから優しく声をかけてやる。


「…ラルド。」

「…」

「そういう気持ちは大事だ。だから絶対無くしたりすんなよ?ただまあ、次からは一言言えるくらいの余裕は残そうな。」


先程の動揺ぶりを無かった事にするかのような態度に、ライノルズはぷるぷると笑いをこらえる。
涙をこらえる事に必死なラルドはそれに気付かないまま、こくりと小さく頷いた。


「よし、良い子だ…あ?」


ぐらり、ニカッと笑った直後に、アルヴァートの体が傾いた。
そのままグテリと床に倒れ伏して、ぱちぱちと瞬きを繰り返す。


「…あれ?」

「船長!?」

「お、おう、あれ、なんかぐらぐら…」

「らから濡れすぎって言ったんらよ!」


べしんっとディランはその頭を叩いて、ずるずると船室へと引きずっていく。
…どうやら風邪らしい。本当に海で濡れすぎたのだろう。

あーあと苦笑するカタリーナやライノルズに、他の船員達も仕方ないなぁと笑ってそれぞれの仕事に戻って行く。
案外珍しい事でもないらしい。

ラルドはきょろきょろと辺りを見回して、どうすればいいのかと途方に暮れた。
とにかく立ち上がろうとして、足の痺れにバランスを崩す。

だがなんとか起き上がると、ててて…と覚束無い足取りで船室へと走った。