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ベレン領海を出てしばらく。
相変わらず青い世界だが、ベレン領海よりも潮風が寒くなって来た事を感じて、ラルドはぶるりと体を震わせた。

先程聞いた話では、ベレン領海より北にあるオーラムオルドの領海に入ったらしい。

こちらの方に来るのは始めてだと、甲板で波の音を聞きながらうとうととフネを漕ぐ。
ディランに注意されたので頑張って目を開くが、それよりもわざわざ隣に座り込んでため息をつくアルヴァートとカタリーナが気になってたまらない。

二人はオーラムオルド領海に入ってからというもの、ずっとこんな調子である。


「ホームがもうすぐだからそわそわしてるんだよ。」

「ホーム…」

「僕達の専用の港。まあ借りてるだけだけどね。」


そう教えてくれたライノルズを見上げて、ラルドはそんなに楽しみなのだろうかと再び二人を見る。

しかし、明らかに楽しみというより憂鬱といった感情しか見られない。
照れ隠しなのだろうかと首を傾げれば、通りかかった船員が笑いを堪えながら近付いてきた。


「船長も姉御もヴェルディさんに会いたくねーんだよなぁ。」

「っさいな!仕方ないだろ!」

「っせぇよ!大体戻るの一年ぶりだぞ絶対うるさいまじうるさい。」


頭を抱えてうずくまった二人に思わず後退りしてしまう。
猛烈な拒絶にらしくないなと思いながら、これほどとは一体どんな人がいるんだろうと少し興味がわく。

そんな中でライノルズは小さく息をついて、ぽんとカタリーナの肩を叩く。


「会いたくないに決まってんじゃないまじああああもう!」

「そんなリーナちゃんにはもう一つ試練だよ。もう七年経つからね。」


叩かれて、言葉を渡されて。
カタリーナは珍しくその顔から表情を無くした。

それから何事かを考えるように視線をさまよわせて、そっかそっかと繰り返す。


「あー…そう、か。七年、経つの、か。」


ガリガリと頭を掻いて、よいしょと立ち上がる。
それから一人、船室へと入っていく。
その姿を見送って、ラルドはやっぱり、首を傾げた。


「七年…」


あの歌が、消えて。