30
ベレン領海を出てしばらく。
相変わらず青い世界だが、ベレン領海よりも潮風が寒くなって来た事を感じて、ラルドはぶるりと体を震わせた。
先程聞いた話では、ベレン領海より北にあるオーラムオルドの領海に入ったらしい。
こちらの方に来るのは始めてだと、甲板で波の音を聞きながらうとうととフネを漕ぐ。
ディランに注意されたので頑張って目を開くが、それよりもわざわざ隣に座り込んでため息をつくアルヴァートとカタリーナが気になってたまらない。
二人はオーラムオルド領海に入ってからというもの、ずっとこんな調子である。
「ホームがもうすぐだからそわそわしてるんだよ。」
「ホーム…」
「僕達の専用の港。まあ借りてるだけだけどね。」
そう教えてくれたライノルズを見上げて、ラルドはそんなに楽しみなのだろうかと再び二人を見る。
しかし、明らかに楽しみというより憂鬱といった感情しか見られない。
照れ隠しなのだろうかと首を傾げれば、通りかかった船員が笑いを堪えながら近付いてきた。
「船長も姉御もヴェルディさんに会いたくねーんだよなぁ。」
「っさいな!仕方ないだろ!」
「っせぇよ!大体戻るの一年ぶりだぞ絶対うるさいまじうるさい。」
頭を抱えてうずくまった二人に思わず後退りしてしまう。
猛烈な拒絶にらしくないなと思いながら、これほどとは一体どんな人がいるんだろうと少し興味がわく。
そんな中でライノルズは小さく息をついて、ぽんとカタリーナの肩を叩く。
「会いたくないに決まってんじゃないまじああああもう!」
「そんなリーナちゃんにはもう一つ試練だよ。もう七年経つからね。」
叩かれて、言葉を渡されて。
カタリーナは珍しくその顔から表情を無くした。
それから何事かを考えるように視線をさまよわせて、そっかそっかと繰り返す。
「あー…そう、か。七年、経つの、か。」
ガリガリと頭を掻いて、よいしょと立ち上がる。
それから一人、船室へと入っていく。
その姿を見送って、ラルドはやっぱり、首を傾げた。
「七年…」
あの歌が、消えて。