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「うーみーはーひろいーなーまっさーおーだー」
陽が傾き始めたのを見て、カタリーナが小舟に戻ろうとした時だった。
小舟を停めていた場所の隣に、もうひとつ小舟が停まっている。
小さなそれに座り、ラルドを膝に乗せて指でいじりながら、アルヴァートがそう歌っていたのだ。
「こーぐーまーつーりし、こーのーふーねー」
あの日と同じそれは、相変わらず微妙に音程はハズれているし、途中から違う歌にすらなっている。
「あ、来た。」
先に気付いたラルドが袖を引いた事に、アルヴァートはあの日よりもずっと低くなったにも関わらず、変わらずに呑気な声でそう言って立ち上がった。
カタリーナはそれに少し小走りで近付く。
「悪い。わざわざ来て待ってたのかい?」
「まあな。」
「もういいよ、ありがとね。」
そう小舟に乗り込もうとしたカタリーナの前を塞いで、アルヴァートはじっとカタリーナを見た。
真っ直ぐに。
「…俺は、お前が一番望む場所には連れて行けねぇよ。それでもいいか?」
それは、あの日と全く同じ質問だ。
違うのは二人とも七年の時を生きた事と、自分達が海賊として仲間を得た事と、不思議そうに二人を見上げるラルドがいるという事だけ。
カタリーナは同じように頷こうとして…それをやめた。
頷くだけじゃない。
それ以上の事が、今は出来るのだから。
「…何言ってんだい、アヴァン。アタシが一番望む場所なら、目の前にあるじゃないか。アンタがアタシを捨てるまで、こっから降りてやるつもりなんて欠片も無いよ。」
「…上等。」
カタリーナが強くそう笑ったから。
アルヴァートも強く笑い返した。
「あーあ、行っちゃった。」
誰もいなくなった廃船で、彼はそう呟きながら勢い良く椅子に座り込んだ。
うずくまるように座って、ワザとギィギィと音を鳴らしながら揺れてみる。
「でもこれでいいんだよね。だって、こうすれば生きてくれるし。七年後ならさすがに二次災害の心配もいらないし。」
アイツはなんだかんだで信用出来るし、と心中で付け足しながら背もたれにガリガリと文字を刻んでいく。
七年後、自分が生きている自信は無いから。
「…カーはかーもめーのーカー、ターはタンバリンのター、リーはりーんごーのーリー、ナーは菜っ葉のナー…」
声に涙が混じるのを、彼は気付かないフリをした。
きっとこれも泡に変わるだろうから。
嗚呼、でも、あの愛し子よ。
未来のキミよ。
変わらずにいますか。
楽しく生きてくれていますか。
リボンも付けないキミだったけど。
なんとも素敵な人になっているでしょう。
すてきなボクの最愛の友人へ。
バイバイは言わないから。
いつもキミが、幸せでありますように。