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「えー、ちょっと寄り道もしちゃったけど…ここが僕達が港を借りている街、モネウィルドです!」
ばぁんという効果音を自分で付けながら、ライノルズはラルドの背中を軽く押しながらそう船を降りた。
オーラムオルド領のはじの方にある街モネウィルドは、いくつかの海賊…といってもそのほとんどが海軍に罪賊と言われ追われたりはしない、小さな海軍に港を貸している港街船だ。
アイヤレの街に似て商船が集っており、その中央には川を流すようにして小舟が通る道が作られている。
アルヴァート達も船を港に止めた後は小舟を使い、その間を通っていく。
「アヴァン達じゃねーか!まだくたばってなかったか!」
「誰が簡単にくたばるかよ。」
「姉御久しぶりー!ちょっとまた話聞かせてよ!」
「やっと帰ってきた!ディランに薬で聞きたい事があるんだが…」
話しかけて来た人々によって、次々と船員達は思い思いの場所に散らばって行く。
どうやら船の整備や金品の売り買いは後にして、今日はとにかく休む事になっているらしい。
アルヴァートと二人小舟に乗っていたラルドは、水面に手を付けて遊びながらそれを眺めた。
「明るい奴らだろ。みんな元々は俺の船に乗ってたり、自分で海賊やってたりした奴らでさ。だからか街全体が家族って感じだなー。」
「…家族。」
「ああ!…それにその、ちょっと知り合いが言ってたんだが…」
いつも明るくはっきりと話すアルヴァートが珍しく言葉を濁す。
ラルドが知る限りでは初めてのそれに、ラルドも思わず彼を見た。
アルヴァートは頬をぽりぽりと掻くと、少し恥ずかしそうにしながら言葉を紡ぐ。
「“かいぞく”から“い”やな事を抜くと“かぞく”になるんだってさ。」
だからみんな家族なんだ。
そう続けたアルヴァートに、ラルドはぽかんとそれを眺めた。
「…なにそれ。」
「いや、まあ、あはは…あ、俺達はこっちな。」
恥ずかしかったのか、話を逸らすように小舟の行き先を変える。
いつも「お前は俺の物だ」だの「一緒にいて幸せだ」だのと、もっと恥ずかしい事言ってるくせにと思うと、なんだかそれがおかしく見えてラルドは小さく笑った。
それにアルヴァートは嬉しそうに彼の頭を撫でて、そのまま潮の流れるままに街を進んで行く。
ある程度進んで、アルヴァートは船を停めた。
簡素な造りの家船の前の桟橋に乗って、ラルドの手をひいて中へと入った。
彼の家なのだろうか。
ズカズカと入り込んで、奥へ奥へと入っていく。
そしてとある扉を開くと、そこにいた人物の名前を呼んだ。
洗濯物をしていたらしいその人物は、アルヴァートの声に嬉しそうに振り返ると、ふわりとスカートを翻らしてにっこりと…どこかアルヴァートに似た笑顔を浮かべた。
「おかえり、アルヴァート!」