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「でーんでーんむーしむーしかーたつっむーりー、おっまえのどっうたいこーこにーあっるーずんどこずんずんずんちゃっちゃっ」
上機嫌に口ずさみながら、アルヴァートはばさりと服を脱いだ。
昨夜は盛り上がって着替えなかったが、そのために服がよれてしまったのだ。
さすがにこれはだらしないと苦笑して目覚めたのはつい先程で、タンスに入っていた服を乱暴に羽織る。
少々キツいなと感じて、また少し逞しくなったかと満足そうに笑った。
「今日もー俺はかっこーいいんだメーうおっ?」
ドンと足に衝撃を感じて歌うのを止める。
下を見ると、そこには大分見慣れた小さな頭があった。
珍しい事にいつも被っているあのリボンのついた青い帽子は被っておらず、ぎゅうとアルヴァートの足にしがみついてくる。
「どうしたラルド。ついにデレたのか?」
冗談混じりに笑って服のボタンをしめる。
だがラルドは特に何も答えるでもなく、再び足にしがみつく力を強くした。
首を傾げていると、奥からラルドの帽子を持ったディランが入ってくる。
「単純にヴェルの被害者ならけらよ…」
「…なに、あいつ今度は何やったの。」
「屋外トイレ。」
「わあ懐かしい。マジあいつに育てられたとか凄い恥ずかしい。」
口調からして彼もやられた覚えがあるらしい。
両手で顔を覆って椅子に座り込んだアルヴァートにディランも力無く笑い返した。
「じゃあオレ、積み荷下ろしに行くから。」
「おう。」
ひらひらと手を振って、ヒョイとラルドを抱き上げた。
膝の上に乗せるも、ラルドは抵抗するどころか逆に彼にしがみついた。
本当に珍しい反応に一瞬戸惑ったが、アルヴァートはすぐにいつものように笑ってラルドを抱きしめ返した。
「今日は珍しく甘えん坊さんだなー」
ぽすぽすと頭を撫でると、ラルドはぐしぐしと胸に額を擦り付けてくる。
すん、と鼻を啜る音が混じっているのだから、涙をごまかしているのかもしれない。
どちらにしろ珍しいそれに、アルヴァートは嬉しく思いながらも必死にそれを噛み締めてなんとかにやけるのを堪える。
「大丈夫。ちょっとアレだけどアイツ自体はいい奴だから。ちゃんと嫌だってやりゃあ覚えるさ。」
「…お婿に行けない。」
「じゃあ嫁になればいいさ。つか、もう俺のだから婿になんてやらねぇよ。」
ははっと笑うアルヴァートを見ていて、ラルドはだんだんと自分が落ち着くのがわかった。
とくとくと聞こえる音が心地良い。
見上げてすぐに見える笑顔が心強い。
いつもいつもいつも、沢山の物をくれる。
それは嬉しいと同時に、申し訳なさと物足りなさを感じさせた。
自分は何も知らない。
知りたい。
「…」
「ん?」
「…あん、たは…」
一体どうやってここに来たの。
そう聞こうにも、言葉が口の中で乾いてしまって聞けない。声にならない。
知りたいと思うのに。
一体何を思って来て何を感じて生きてきたのかを。
彼も、泣いたのだろうかと。
「…あ、あんたも変態なのか?」
「違うっつの。」
こんな事しか聞けない臆病者も、やっぱり臆病者にしかなれないので自己嫌悪。