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「ほんでな、うちホンマに感動してもーた!料理はアレじゃけど甘いもんはむっちゃ上手なんです!」
「ご子息はいいコックを見つけたんですね…機会があれば自分も食べたいです。」
「あ、そこの鞄に入っとりますよ。ここに来る前に、手土産でこっそり貰ったんですわ。良かったらどうぞ。」
苛立たしげに足を揺する音が響く中、にこやかに話すヴェルディに、目の前の表情に乏しい男はそのままの顔でヴェルディの鞄の方へ向かった。
彼女から大分離れた木の根元にあるそれを指して、これで合ってるかと目で問う。
縄で木に縛られている彼女が頷くのを見てから、彼は「失礼します」と呟いて中を漁り始めた。
足を揺する音が更に大きくなる。
苛立たしげなそれに、ヴェルディはその音を発している前髪が斜めに切りそろえられた男を見た。
「ところでなぁ兄ちゃん、これって誘拐っちゅうものでっしゃろ?なんや縛るだけで緊張感が全く無いけど、それでええんですのん?」
「いいわけねぇよ!」
バチンとヴェルディの頭のすぐ上の木の幹を叩いて堪えきれないと叫ぶ。
どうやら彼女は本当に誘拐されていたようだ。
後ろから襲って来た二人の男によってこの植林区…一隻の船を使って設けられた農業用のエリアで、海底から引き上げた土を工夫して利用している…に連れて来られたのは陽が傾き始めた頃である。
その時から変わらず落ち着き払った彼女に男は詰め寄った。
「お前が持たないから緊張感が出ねえんだよぉ。もうちっと恐がったりしたらどうだぁ?」
「…このお菓子美味しい…」
「あかん。あれじゃさっぱりじゃ。」
「おいエル!テメェ何食ってんだ!」
エルと呼ばれた男は呑気にもすもすお菓子を頬張って、何も悪い所は無いとばかりに平然と答える。
「せっかく貰ったんだ。食べなくては失礼だろう。」
「その前に仕事に失礼だろうが。」
「これは正式な仕事じゃないから大丈夫、問題ない。」
グッと親指を立てた彼に、はあと大きくため息をつく。
もう言葉も出ないらしい。
さすがのヴェルディも苦笑を漏らして、えーとと話題を探す。
「なぁ、兄ちゃんらは普段何してはりますのん?誘拐犯?」
「ちげえよ。でも姉ちゃんには関係ねぇ。」
「関係ならあるじゃろうに。うちを誘拐するからには何かしら理由があるんでっしゃろ?」
「なんだ、物分かりいいじゃねぇか。」
ゼッハッハッと機嫌良く笑った男に少しホッとして、帰るにはまだまだ時間がかかるかなぁと自分の手元にそれとなく意識を向けた。
男はニッと笑うと彼女の顎を持ち上げて、じっと彼女を見る。
静かに見つめ返せば、彼はゆっくりと目的を話した。
「あんたのガキが連れてる幸福の子供が欲しいんだ。」
ぴくり、と反応したのは一体どの単語だったか。
ヴェルディは少しの間思考を巡らせると、やがて挑発するように笑顔を浮かべる。
「…交換するんじゃうちは役不足じゃ思うけどなぁ。」
「だろうなぁ。でもよ、ここはあの“AAAのホーム”なんだ。家族は大切にするってのは、姉ちゃんが一番教えこんだ事だろぉ?」
調べてるな、と冷静に思った。
アルヴァートの周りも過去も、きっとよく調べた上で自分を連れて来たのかと考えてヴェルディは小さく笑う。
「でもムリじゃ。あんたらに渡すくらいなら、うちが横からかっさらってラルドくんをうちの子ぉにするわ。」
「ならあんたごと貰っちまえばいい。一般人の姉ちゃんなんか怖くねぇしなぁ。」
「いややわぁー兄ちゃんたら。あんましうちを。」
ぶちり、パサリ。
何かが切れて落ちる音と共にヴェルディは立ち上がった。
つまりは彼女を縛っていた縄が切れたという事だ。
彼女は立ち上がると、縄を切ったナイフをさっと袖に戻す。
そして、不敵に笑ってみせた。
「舐めたあかんよ?」