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ナイフをしまったヴェルディを見て、男はニヤリと笑った。

す、と手を出した彼に、後ろでお菓子を頬張っていた男は無言で刀を渡す。
どうやら警戒しているらしい。
それでも笑みを浮かべているのは余裕からなのだろう。


「…はぁん。縄抜けうまいな、あんた。さすがAAAのお母様だぁ。」

「うちは海賊になるの反対派だったんじゃけどね。そもそも縄抜けしか出来ん一般人じゃし。」


ははっと肩を竦めたヴェルディに自分もと銃を構えようとした男を手で止め、周りの警戒をするように声に出さないまま指示をする。


「気にくわねぇなぁ。あんたにとって幸福の子供はまだ初対面だろ?子供の物だからか?」

「それもあるな。じゃけど普通に可愛い子は大事にせなあかんもん。」

「その結果が子沢山とは…まぁ、案外そういうのも嫌いじゃないぜぇ?」

「おおきに。うちもあんたみたいに前髪斜めにしてまうドジっこは許容範囲内じゃ。」

「ドジっこじゃねぇよ!」


思わず叫んだと同時にヴェルディが走ろうとすると、ほとんど同じタイミングで銃が発砲される。

先程の指示通り、周りを警戒していた結果なのだが、チッと腕を弾がかする感覚に思わず悲鳴が漏れた。


「一般人に撃つなんて酷いやん!」

「すみません、お菓子がおいしかったのでつい。」

「なら仕方ないな。」

「お前らちゃんと会話してるか?」


二人して真顔なのだが、いまいち噛み合っていない会話にため息をついて、一気に彼女に向かって踏み込んだ。

あくまで威嚇のつもりでわざと大振りに振れば、ぎゅっと体を縮こまらせたヴェルディの後ろから飛んで来た殺気にその切っ先を高い音と共に弾かれた。

手に残る感覚はそれが銃の類では無い事だけを脳に伝える。


「あーったく、幼女じゃなくて男に興奮中かよ。お前が育て親とか本当に恥ずかしいんだけど。」


サクサクと足音を立てて近付くそれに、ああやっぱり銃ではなく、彼が投げた小石かと冷静に思った。

ヴェルディも体から力を抜いて、余裕を取り戻した笑みを浮かべる。


「でもそんなうちを迎えに来るような息子持って、うちは幸せじゃな。」

「ああ?勘違いすんなバーカ。俺は散歩に来ただけだよ。ラルド泣かせるような変態を身内に持って俺は泣きそうなんだ。」


ヒョイと持っていた小石を床に放って、彼は彼女の隣に立つ。
そして、面白そうにこちらを見ていた二人に対し笑ってみせた。


「ま、とっとと帰ろうか?ヴェルディ。」