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「怪我して動けないから帰れなかった、ねぇ…」
意味ありげに呟いたライノルズに、ヴェルディは困ったように笑った。
隣の部屋からは4人が食事をしている音が聞こえてくるが、今は足の怪我に包帯を巻いている最中なので二人は別室に移動している。
傷跡は明らかに銃で撃たれている事を示しているのだ。
ほとんどディランの為に覚えただけとは言え船で船医じみた事をやっている人間を舐めないでほしいと、ライノルズは心中で密かに呟いた。
「おっちゃんの言い方ウザいわぁ。」
「治療してあげてるのにそんな言い方はないんじゃない?」
「うちはディランくんにしてほしい言うてはりましたんに、なんでおっちゃんが治療してはりますのん?」
「あの子にこんな怪我見せたら、もれなくお説教だよ?」
夕飯中だから後でお説教ねと言われた時の事を思い出して、嫌やわぁと笑う。
彼はどうにも面倒見がよすぎる。
それは良いことに変わりないのだが、それで色々とからかわれたりしているのだろうと船上の彼らを考えて、ヴェルディは何とはなしに天井を仰いだ。
「…ディランくんも大きゅうなったんじゃなぁ。」
「なに、寂しくなっちゃった?」
「ほやな。寂しいわ。」
今は詳しい説明は省くが、アルヴァートもディランもカタリーナも昔はヴェルディが面倒を見ていた。
カタリーナとディランはアルヴァートが海に出てからの出会いではあったが、どちらも大切な子供のように思っている。
昔は何かと自分の後ろをついてまわっていたものだと思い出して、ふふっと笑う。
「みんなまだまだ子供や思っとったんじゃけどな。いつの間にかちゃんとおんぶも出来るようなって…あー、お母さんむっちゃ寂しいわぁ。」
「自分でお母さんなんて言うもんじゃないよ。ヴェルちゃんまだ若いんだから。」
「そりゃおっちゃんよりは若いけど…」
「ねぇまだ僕28だからね?」
ぽん、と包帯を巻いた足を軽く叩いて、おしまいと合図をする。
ライノルズは大きくのびをすると、さてと軽く息をついた。
「早く行かないとご飯無くなるよ。僕なりにかなり上達したんだけど…」
「おっちゃん。」
料理の腕が上達したと自慢しようとして、ヴェルディに静かに呼ばれる。
話の腰を折られたと少し残念そうに彼女を見れば、彼女もまたじっとライノルズを見上げていた。
その顔は彼女の子供達にはあまりしない、真剣な25歳の顔だ。
「うちはあんたに感謝してたりする。あんたのおかげで可愛いあの子らに会えたし、何よりあの子に色んなもんをくれた。」
「…いきなりどうしたの。」
「じゃけぇ、聞きたいんじゃ。」
正直、その質問を聞きたくは無かった。
なんとなく理解していたし、彼を海に連れ出す際にも聞かれた言葉だから。
「あんたは、ちゃんと幸せなん?」
ライノルズはあの時と何も変わらず、少しだけ何かを呪うように不自然に笑った。
「…少なくとも、僕が台無しにしてしまった彼女よりはずっとね。」
泣きながら銃を向けた、あの幼い少女よりはね。
そう答えるライノルズに、ヴェルディは「…ほぉか。」とだけ答えた。