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カチャカチャ、ザアザア、食器を洗う音が部屋に響く。
ヴェルディの怪我がそう酷くなく、船員達も十分休んだという事で明後日出港する事を決めたアルヴァートがそれを皆に伝えに行ったのはついさっき。

また暫く食材の残りやら献立やらを考える日々が始まるのかと、ライノルズは隣で食器を拭くディランに洗い終わったそれらを渡した。


「ねぇノイズ。ヴェルの怪我って、やっぱり?」

「うん。誰かは知らないけど銃で撃たれた奴だったよ。」


質問に素直に答えれば、ディランは「そう」と少し拗ねたように眼鏡を両手で押し上げる。

これは幼い時からの彼の癖だ。
何か言いたい事があるのに言えない、そういう合図。


「そんな顔しないの。ちゃんと無事だったでしょー」

「れも…センチョやリナと違って、オレはヴェルに何も返せてないから。」


ぽつり、呟いた彼の方を、ライノルズは静かに見つめた。


「そもそもキャラ薄いし、戦闘れもそこまれ役に立たないし、そのくせつい前にれちゃうし…昔、ヴェルは「それがいいんじゃよ」って言ってくれたけろ、やっぱり…なんか…」


申し込みない…と消えそうな声で言ったディランに、ライノルズは小さく息をつく。

彼も13歳の時にとある街でアルヴァートとヴェルディに出会って以来、ずっと彼女を母親代わりにして暮らしていたのだ。
なのに同じ境遇のカタリーナよりも彼女と同じ時間を過ごせない事に無意識ながら寂しさを感じているのだろう。

20にもなってまだまだ子供だなと、少しだけ微笑ましく思う。


「…みんな、なんだかんだヴェルちゃんが好きだよねぇ。普段は変態だなんだ言ってるくせに。」

「そりゃあ、隙あらばセクハラ発言をかまされたり下着関係のうらみなんかは忘れてないよ。けろそれ以外は感謝してるし。じゃなきゃノイズとも一緒にいないよ。」

「わあ、耳が痛い。」


わざとらしく言うライノルズに今度はディランがため息をついて、でも、と心中で言葉を続けた。

そのおかげれ今があるんなら、まあそれれいいかな、なんて。


(どないしたん、ディランくん。そんなに泣いたらあかんよー)


泣いてばかりいたあの日々だって、きっといい物になるだろう。


(大丈夫じゃって!そないな事気にする必要ち無いよ。ほら、笑って笑って。)


にっこり、笑ってみる。
食器を拭くスピードを少しだけ早くしてみる。


(ほや、ディランくんは笑ったって。あの子らが笑わなくても、あんただけは笑ったって。そしたらきっと、みんなも笑ってくれる。)


それだけで、なんだか達成感。


(ほら、笑って。)


それだけで、明日もまた頑張れる気がした。