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青く晴れ渡った空に、出港準備の声があちこちから響く。
次はベラハルチの方へ行こう、いいや次はユーマイオルド領へ、むしろフルルユア領へ…等と言った声が飛び交い、皆が海に出る事を楽しみにしているのがよくわかる。
「あーん、そういや今回はリナちゃんとあんましお話し出来ひんかったやーん。寂しいわーもっとお話ししたってー」
「嫌だやめて変態が移る。」
「それ反抗期?反抗期なん?」
「反抗期じゃなくて嫌悪期。」
「そんなん勝手に作らんとって!」
そんな中でカタリーナにしがみつくヴェルディの姿はそう珍しくも無いらしい。
むしろ彼女のあしらい方は定番となっているらしく、皆暖かい目で見守っている。
準備を終え船に乗り込んだ数人の船員が、その様子を眺めていたアルヴァートにからかうように言った。
「姉御は相変わらずっすねぇ。」
「船長は混じらなくていいんですかーい?」
「なんで混じらなきゃなんねーんだ。」
「だって姉御も船長もヴェル姉さんが大好きなくせにー」
「勝手な事言うな!」
一喝すれば、彼らはふざけた笑い声を上げたまま奥へと引っ込む。
まったく、と肩を怒らせて、アルヴァートはツカツカと二人に近付いてヴェルディの膝を蹴った。
その隙にさっと彼女から離れたカタリーナにヴェルディは心底残念そうな顔をする。
だがアルヴァートの足下にとてて…と走ってきたラルドを見て、すぐにパッと笑顔を浮かべた。
嬉しそうに持っていたクラークごとラルドを抱き締めて、それから船に向かって手を振る。
「じゃあみんな行ってらっしゃい!捕まらんよう頑張ってなー!」
ちゃんと待ってるでー、と笑う彼女に船員達も言葉を返して、それにつられて他の見送りの人々も声をかける。
双方に流れる暖かな空気に、家族だと言ったアルヴァートやヴェルディの言葉を思い出して、ラルドはきゅっとクラークを抱き締めた。
ラルドくん、と名前を呼ばれてゆっくりと見上げると、満面の笑みで彼女に頭を撫でられる。
「ここはあんたのホームじゃ思ってええんやで。次帰って来たら、うちとむっちゃ遊ぼうな。」
なんてことはない約束。
でもなんだかそれがこそばゆくて、成る程確かにアルヴァートの育て親だとひっそり思った。
こくんと一つ頷いて、船へと乗り込む。
碇が上がり帆が広がり、船が再び広い海へと出て行く。
その姿が見えなくなるまで、ヴェルディは大きく手を振って満面の笑みを絶やす事はしなかった。
「いってらっしゃい!」