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「あの、リズナート少将。本当にこれを実行するんですか?」


紙をぴらりと捲って、オシリスはそう目の前で椅子にふんぞり返るシェントを見た。

つい先日、わざわざAAAに接触して来たらしい彼はそれを踏まえての「幸福の子供保護作戦」を考案している。

それは確かに彼を“保護”するに適した内容だと言えるだろう。
だが、自分達が敢えてやらなかった内容であるが故に、オシリスは思わず渋るように彼を見た。


「言っただろぉ。こっちも参加するって。あんまりちんたらやってっと、あのじじいがうるせえからなぁ。」


そう言ってどこか憎むような目をした上司に、オシリスはそれ以上の発言をやめる。
彼の隣に立つエルトゥリもアーリアも、何も言わずにただ目を瞑るだけだ。

シェントはアーリアを真っ直ぐに見て、彼女にだけ言葉を向ける。


「だからわかってるなぁアーリア大佐。暫くは嫌でもFRの事は忘れろ。」

「…」

「あと、ディランだっけ?AAAの一味であいつに繋がる奴。どうしてもアレならそいつでも捕まえなぁ。」

「…了解しました。」


何も言わないアーリアを、オシリスは心配そうに見つめた。
だが彼女はオシリスを見る事は一切せず、毅然とした態度でそこに立ち続けた。


「いいか、本気を出せ。もう海賊とのお遊びは終わりだ。やりたい事やるためにも、とっととラルドを捕まえるぞ。」


はい解散、と言ってエルトゥリに違う書類を手渡されながら、シェントはアーリアとオシリスに出て行くよう手の動きだけで命じる。

一度軽く頭を下げて無言で部屋を出て行く彼女をオシリスは小走りで追いかけた。


「姉さま。」

「構いませんよ。AAAを泳がせておけばもしかしたらと思っていましたが…時間切れです。ああでも、人魚だけを捕まえればまだ可能性はありますね。そう、あの青年とAAAがいれば…」


ぶつぶつと呟く彼女に、そんなの言い訳だと言いたくなるのを必死に堪える。
今までわざとAAAを逃がして、戦いだけを楽しんでいたのに、と。
それがもしかしたら彼女がずっと追いかけているあの人への近道かもしれなかったのに。

アーリアはきゅっと帽子を深く被って、そして後ろで俯いていたオシリスに声をかけた。


「行きましょう。手を抜くにしても本気でかからなければいけません。」

「…はい。了解しました。」


くすぶる思いは、今はまだ、見ないふり。