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「わっ…」


投げつけられたナイフをなんとか避けて、ディランは床を転がった。

アルヴァート達のテンションのままに乗り込んだ船は細やかな装飾を散りばめており、遠目からはもちろん中に入った今でも高貴な船だというのがわかる。

しかし、乗っている人々は違った。
襲撃してきた自分達に対し冷静に対応し、更に船を動かして自分達の船に数人が乗り込んだのだ。

明らかに戦闘訓練を受けたような動きの相手に、ディランは乗り込む船を間違えたなと苦笑した。


「わっとっとっ」


こちらもナイフを投げつけても、相手は上手くそれをいなしてくる。
もしかして海軍か?と思い始めた辺りで、チカリと光る物に気付いてディランはサッと青ざめた。

銃だ。
鈍いそれが自分に向けられている事実に、どうやって逃げようと頭を巡らせる。

だが、後ろから蹴り飛ばされて「わひゃあ!」と悲鳴を上げて床を転がった。

同時に響いた銃声が相手の銃を弾くのを見て、自分を蹴り飛ばしたのがカタリーナだと気付く。

彼女はベルトに着けていた弾を充填しながら冷静にディランに言葉を投げる。


「ディラン、あんたは船の中に戻りな。オヤジだけじゃ心配だろ。」

「リナ…わかった!」


走り去るディランに迷いは無い。
事実自分は今邪魔でしかないことを理解しているし、何より船には非戦闘員のライノルズとラルドしかいないのだ。
もし本当にこれが海軍の船なら、急がなければならない。

ディランを執拗に狙ってくる相手を上手く左右の銃で撃ちながら、カタリーナはそれを援護する。

そして彼の姿が見えなくなった辺りで、カタリーナはふっと笑った。
代わりに現れた姿は前から何度も見ているものだ。

彼…オシリスはカタリーナを冷静に見やると、そのまま銃を構える。


「やーっぱりあんたか。前回の続きでもするかい?」

「そうだね。今度こそその顔ぐちゃぐちゃにしてやるよクソ女。」

「上等だこのケツ!」


同時に床を蹴った二人を少し高い所から見ていたアルヴァートは、仕方ないなぁと肩をすくめる。


「ったく、やっぱテンションだけでやるもんじゃねぇな。」


そう呟いて、目の前で剣を持つ男を見る。
つい先日見たその姿にわざとらしく笑う。


「なぁ、これ誰の船?随分と貴族っぽいんだけど。」

「エルトゥリ大尉のだぁ。海上戦用のくせに見た目にこだわってたらこうなったらしいぜぇ?」

「迷惑なこだわり方だな。」


笑い合うアルヴァートとシェントはゆっくりとそれぞれの得物を構える。
余裕の表情を浮かべる彼らは、だが互いに互いを警戒したまま…床を、蹴った。


「まあいいや。とりあえず、あんたを片付ければいいんだろ?」

「今度は見逃してやらねぇからなぁ!」