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シェントはアーリアと同じように剣を使うが、戦い方は大きく違っていた。
鞘や近くにある物全てを使って豪快に攻撃してきた彼女とは違い、シェントは剣一本で攻撃を繰り出してくる。
更に、アーリアのように東の刀匠に頼んだわけではないせいか、「切る」というより「刺す」事を目的とした素早い身のこなしは、最近ずっとアーリアやそこら辺の傭兵とばかり戦っていたアルヴァートにはなかなか戦い辛い。
船の高低差を利用して積み荷を崩し、視界を奪った上で足を狙って撃つ。
特に関節の辺りを狙うが、彼は崩された積み荷を蹴り上げて逆にアルヴァートの視界を奪った。
互いに互いがよく見えない戦闘。
しかし、それでも二人は正確に相手を追って掠り傷を複数つけていく。
激しい動きに早まる心臓の鼓動に、だが二人は愉しそうに笑みを浮かべる。
「なかなかやるじゃねぇか!少将って地位は嘘じゃないんだな!」
「嘘なんかつくかぁ舐めんなぁ!」
落ちていた海軍用のナイフを投げつけて、更に自分も床を蹴ってシェントとの距離を詰める。
予想外の動きにシェントはそのまま放たれた蹴りをまともに食らうが、自分もちゃっかり剣をアルヴァートの腕に刺した。
一度距離を取って、床に転がっていた長い棒を拾う。
くるくるとそれで遊びながら、アルヴァートは優雅ともとれる仕草で銃に弾を補填した。
「あんたら、こんな罠紛いの事してんのはやっぱりアイツの為?」
「…大変不本意だが、命令だからなぁ。あの少年を保護しろってよぉ。」
「ハッ。ただの子供になんでそこまでやるのかね。」
「知るかぁ。そんなの、幸福の子供だなんて呼び始めた奴を恨むしかねぇ!」
踏み出してきたシェントに、棒をうまく使って剣を弾く。
刺す事に特化したそれは棒を切りきる事が出来ずにギリギリと音を立てて止まり、至近距離からの発砲を許してしまう。
一度大きく距離を取って、シェントはだが愉しそうに顔を歪めた。
「ラルドはただの泣き虫なガキだ。そんな奴を海軍なんて堅苦しい所に連れて行かせるかよ。」
「…じゃあ、自分から行くっつったらどうすんだぁ?」
「あぁ?」
その質問の意図がよくわからず、アルヴァートは眉間に皺をよせる。
「自分からお前の所を離れたい。そう言ったら手離せるのかって聞いてんだぁ。」
「…そんな事言わせねぇよ。ま、泣いて嫌がったらさすがに悩むが。」
「ふぅん…で、実際はどうなんだぁ?」
その問いかけは、決してアルヴァートに向けられたものでは無かった。
言葉と同時に船室から出て来た二人に対するものだ。
黒い人影に連れられた青い小さな影に、アルヴァートは何かとても嫌な予感を感じて…だがなんとか、笑みを作ろうとする。
それに黒い人影は…アーリアは、まるで勝利を確信したかのように微笑んだ。