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リアンジェカ海軍本部の中にある食堂で、アーリアはザクリとフォークをタルト生地に突き刺した。
広がる甘い匂いに僅かに頬を緩めて、だがやはりもう少し甘い物が欲しいのだと記憶を探る。
昔に食べたこれはもっと甘くて、もっとずっとおいしかった。
ただ記憶が美化されているだけなのだろうかと遠く海を睨んで、その答えが現れてくれるのではないかと小さく期待する。
「そんなに外を睨んでどうしたんだぁ?アーリア。」
ゼッハッハッとやって来た人物に、所詮はこんな物かと小さくため息。
どっかりと目の前の椅子に座ったシェントと、その隣に静かに座ったエルトゥリに、アーリアは静かにタルトを頬張った。
「…別に、なんでもありませんよ。」
「AAAが来るんじゃないか疑ってるってところか?」
「わかってるじゃないですか。」
「まぁなぁ。で?お前には少年を上手く言いくるめろって命令出してたけど…なんて言ったんだぁ?随分素直に着いてきたけどよぉ。」
「アーリア大佐、それどのメニューですか?」
エルトゥリの質問にメニューの一部を指指して答え、少し前の出来事を思い返す。
ラルド自身を動かせば、彼を保護するのは予想外に簡単だろうと言ったシェントの作戦通りに、アーリアは一人でラルドの前に現れた。
その時彼に言ったのは確か一言だけだったと思い出す。
「今のこの状況は誰のせいでしょうと訪ねただけですね。」
「ピンポイント攻撃じゃねぇか。」
「長く話すなんて面倒ですから。」
「…もうちょっと甘さ控えめかと思った。」
「お前は黙って食ってろぉ。」
一人全く違う会話をするエルトゥリを軽く小突いて、シェントは再びアーリアに向き直る。
彼女のその質問は、本来ならもう一言二言付け足してトドメをさすつもりだったらしいが、タイミングのいい事に、船の襲撃自体がラルドの言葉による勢いだった。
だからこそたった一言で終わった会話に、アーリアは物足りなさを感じる。
「で?お前はあいつらが来ると思っていると。」
「少し違います。来てくれたらなと思っているだけですよ。そうしたら、繋がるかもしれないじゃないですか。」
繋がる先は言葉にしなくてもわかった。
彼女が執着するのはたった一つの事柄だけなのだから。
シェントは小さく口笛を吹いて、行儀悪く椅子にもたれかかった。
「…一途な奴。あんまり一途過ぎるのも問題だぞぉ?」
「結構。」
「あ、来た。」
「お前はまた何か頼んだのかぁ?」
「じゃあ配置についてきます。」
「会話してくれるかエルトゥリ大尉。」
立ち上がった彼にシェントは呆れるが、アーリアは面白そうに笑みを浮かべた。
彼女も最後の一口を頬張って、静かに立ち上がる。
二人が見るのは窓の外だ。
それにようやく気付いて見れば、ああなるほどとシェントも笑みを浮かべる。
「期待を裏切らない人というのは、やはり好感が持てますね。」
そこから見えるのは、アルヴァートの船だった。