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この場所は嫌だ。
昼も夜も何も変わらず、ただ閉じこもるだけの場所。
与えられる高貴な服も食べ物も全て色褪せて見えるし、何より。
ここはとても、寒かった。
早く終わればいい。
みんなみんないなくなって、自分自身も溶けてしまえばいい。
そうすればもう何も怖くないし、ずっと胸の底にある焦りにも似た空虚感などという矛盾めいた感情なんて消えて無くなるだろう。
光なんていらないから、早く、早く終わらせて。
カチャリ、軽い音が響いた。
次にそっと一筋の光が部屋の中に入ってきて彼を照らす。
その光の向こうにいたのは、彼が望んだ彼ではない。
だがどこか焦っているような、何か恐れているような表情で、彼は一言だけ言った。
「…逃げよう。」
「おーおー、軍人が大量だな。」
「そりゃあ天下のキルライシエ領海軍本部のある帝都艦リアンジェカ。海軍なんてたくさんいるに決まってるじゃないか。」
ギィギィと波に揺れる小舟の上で、カタリーナは呆れたように答えた。
アルヴァートが見る先には自分達の船がある。
先程からしきりに軍の弾を避け、同時に反撃する動きは実に上手く、軍の射撃範囲を冷静に見極めているのがわかる。
アルヴァートと二人小舟に乗るカタリーナはそれをじっと眺めて、時折自分も同じように体を傾かせた。
「ディランとディーがいるんだ。海上戦なら心配ねぇよ。」
「別に心配なんかしてないさ。ただ、アタシらのお宝はどこにあるのかってね。」
「…そっちは知らねえけど、大佐様なら見つけたみたいだぜ?」
にぃ、と笑った先には、船先に立ちじっとアルヴァート達を眺めるアーリアの姿があった。
船先と言ってもそれはリアンジェカの港の部分であり、その後ろに浮かぶどこかの家紋を掲げた船をわざとらしく見せている。
「あの嬢ちゃんの事だから、あの後ろの船にいますよ〜って事なんだろうね。」
「あいつも親切だよなぁ。」
どうにも彼女は戦闘を楽しむ癖があるらしく、わざとこちらの目的をちらつかせて自分を追い込む事がよくある。
きっと今回もそういう事なのだろう。
彼女はそういう意味ではとても正直で誠実なのだ。
アルヴァートとカタリーナはそれぞれの銃を構えると、自らの上唇を舐めた。