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「…残念でしたねぇホルス公。あの幸福の子はちゃんと自分の居場所があるみたいですよ。」
呆然とアルヴァートとラルドを見ていたフォルキシアに、オシリスは挑発するように言った。
ゆっくりと立ち上がる彼の頬は赤く腫れていたが、表情はとても清々しい。
だがその表情にフォルキシアはす、と目を細め、更に彼を突き飛ばした。
ドンと壁に背中を強く打ち付けて、オシリスは悲鳴を上げたいのを必死に堪える。
大丈夫だ。目的はちゃんと果たした。
ちゃんとあの幸福の子は、自分の場所に帰れたんだ。
上等なハッピーエンドじゃないか。
そう自分に言い聞かせて、フォルキシアが向ける視線から必死に思考をそらす。
彼の目は嫌いだ。
あの場所と同じだから。
「羽をもがれた奴が調子に乗るな。貴様になど、もうなんの価値も無いという事を忘れるな。」
「…」
「失礼します。」
オシリスが黙り込むと、タイミングを見計らったようにエルトゥリが扉を開けた。
彼はちらりとオシリスを見るも、相変わらずの無表情で淡々と言葉を紡ぐ。
「現状の報告を申し上げます。AAAは幸福の子供と共に逃走。彼を引き付けていたアーリア・ツィーツィラ大佐は左肩と右足を負傷した模様。また、軍船以外に被害はありません。」
「姉さま…」
出て来たアーリアの名前に反応を示した彼をちらりと見る。
そこにあるのは純粋な心配だけだ。
背中の痣を消されたとは言え、幸福の子供というのは皆同じ考えを持つのだろうかとフォルキシアは意地悪い笑顔を浮かべた。
「…しばらく、ラルドは捨て置け。代わりにあの海賊を捕まえろ。」
「AAAを、ですか?」
「ああ。どうやら彼はルミナリエちゃんと同じ類いの子のようだからな。なら、あれから潰した方がいいだろう?シェント・リズナート少将。」
そう、彼が語りかけた先。
扉の所に寄りかかるようにして立っていたシェントは無言でフォルキシアを睨むと、何も感じさせない固い声でオシリスを呼んだ。
「…オシリス軍曹。医務室でツィーツィラ大佐が呼んでいる。行くぞ。」
エルトゥリならともかく、彼のそんな様子は珍しい…とエルトゥリとフォルキシアの間を通り抜けて、オシリスは素直にシェントの後ろについた。
早足で歩く彼に、オシリスは自分でも驚くほどしおらしい態度で彼に接する。
「あ、あの…すみませんでした。勝手な行動を…」
「別にいいぃ。フォルキシアは大嫌いだからな。」
返ってきた言葉はそれだけだ。
それなのに酷く重く感じる。
その後は無言のまま歩き、やがて医務室で休んでいたアーリアのもとに辿り着いた。
彼女の決して多くない肌の露出部分が更に包帯で覆われているのを見て、何故自分は傍にいなかったのだろうと後悔をしたくなる。
アーリアはそんなオシリスをまず無視して彼を連れて来たシェントを見た。
「少将。何か命令は変わりましたか?」
「ラルドは置いておいて、AAAを捕まえろとの事だぁ。」
「なるほど。オシリス。」
「は、はい。」
呼ばれて無意識に体が強張る。
いつものあの喜びからではない。
勝手に行動した自分に絶望されるのではないかという恐怖だ。
それだって覚悟はしていたが、やはり実際に起こればそんなもの簡単に崩れる。
ぎゅっと目を瞑りたいのを我慢すれば、アーリアはやはり淡々と言葉を並べた。
「結果として私が望んだ通りに事は動いています。上手くいけば彼に会える。私の言いたい事、わかりますね?」
少しの間、理解出来なかった。
しかしそれが自分を責めるものでは無いという事。
むしろ自分の行動を読んで彼女も動いていたという事。
そしてこれからも、自分を傍に置いてくれるのだという事を理解して、オシリスは不格好に顔を緩める。
「…はい。はい。ぼくは、ずっと姉さまについて生きます。あなたにぼくは全て捧ぐと決めたのですから。」
あなたが何を思っているのかなんて関係ない。
確かにあなたがぼくの幸福で、ぼくはあなたを幸せにするために生まれてきたのだから。
あの深海から連れ出してくれたあなたへの、せめてもの。