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「…なるほどなぁ。つまり、アルヴァート達は今頃海の底か海軍様の所っちゅうわけか。」
モネウィルドの街の一角、ついこの間も来たヴェルディの家。
今朝方モネウィルドに着いたライノルズ達は真っ直ぐに彼女の家に向かい、そして“アルヴァート達と一緒に居られない”としか理解出来ていなかったラルドも含めて、彼女に一連の流れを説明した。
あの船の影は間違い無くアーリアの船のライクだと断言するライノルズに、ヴェルディはそう返す。
いつかそうなるのではと覚悟していたらしい彼女は落ち着いていて、ライノルズはそれを茶化すように笑った。
「悪いね。ラル坊連れて来たのが僕でさ。」
「別にそれはええよ。あの子が決めた事に口出しなんかせえへんもん。でもまあ…ラルドくんのお話しは聞きたいなぁ。」
話を振ったラルドは真っ青な顔で俯いていた。
ぎゅうぅと自分のワンピースの裾を握り締めて、今聞かされた話を理解しようと一生懸命のようだ。
ヴェルディは一つ一つの言葉をはっきりと発して、彼に選択肢を与える。
「相手さんは多分、あんたと交換っちゅう形でみんなを人質にするつもりじゃろ。あんたはどうすんの?のこのこ助けに行くん?それとも、あの子らの頑張りを無駄にしないようここに居る?」
「お、おれは…」
聞かれても、すぐに答える事など出来るはずがない。
当然ラルドは言いよどみ、あちこち視線をさまよわせる。
助けに行きたいと思っても、彼にその力なんてあるわけがない。
だからと言って素直に向こうへ行ってしまっては、迎えに来てくれた皆に申し訳ないし自分も嫌だと思う。
そう、意志しか無いのだ。
何も出来ない。何も出来ないからこそ、自分はずっと何にもなれなかったのだ。
また泣くことしか出来ないのかと、浮かぶ涙に唇を強く噛む。
それを見て、ヴェルディはふっと笑った。
「自分の想いでええんよ。」
柔らかい声に、ラルドは顔を上げる。
ほおづえをついて彼を見ていた彼女は、声と同じ柔らかい笑顔を浮かべていた。
「聞いてるんはそれじゃもん、自分がやりたい事を言えばいいだけじゃ。出来る出来ないなんて今はいい。なぁ、ラルドくんはどうしたいん?」
自分で。
自分は、どうしたい?
ラルドは、あの船が好きだ。
迎えに来てくれた船員達全員が好きだ。
あの陽気な場所が好きだ。
アルヴァート達が…大好きだ。
「…おれは、みんなを助けたい。みんなと一緒に居たい。」
想いだけでいいなら、答えなんて最初から決まっていた。
「だから、おれに力を貸して…ください。」
ラルドは自分でも驚く程はっきりとそう言い、真っ直ぐにヴェルディとライノルズを見る。
三人は少しの間見つめ合って、そうして…そうして、二人は肩をすくめた。
「なら決まりじゃね。」
「だね。ヴェルちゃんも来るの?」
「当然じゃろ。あの子らはみぃーんなうちの可愛い子供じゃもん。おっちゃんは来んの?」
「…まぁ、いい機会だしね。それに、いい囮になると思うよ?」
ガシガシと頭を掻くライノルズに笑いかけて、うんとヴェルディはのびをする。
思い思いの行動をする二人を思わず不安げに見上げれば、二人はにっと笑った。
「ほな、うちらの大事なあの子らみぃーんな。」
「助けにでも行こうかね?」