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アーリア・ツィーツィラはベレン領のセトゥーナに住まう一般家庭の生まれである。
それなりに幸せな場所に生まれ、それなりに幸せに生きていた彼女は、だが、ある日“誘拐”という形でその日常を奪われた。
彼女を誘拐したのは、彼女が7歳だったその当時に有名だった海賊だ。
その海賊は街を襲う事も誘拐も強奪もなんでもやった。
戦いになれば敵味方関係なく海に沈める彼らに攫われた事は、ただの“不幸”としか呼びようが無かった。
海賊名称FR…ライノルズ・フィラデルフィア率いるそれに、誘拐された事は。
彼の仲間は他にも子供を誘拐していたらしく、彼女が放り込まれた場所には沢山の子供達がいた。
中には暴行された跡が見える子供も居て、アーリアはそこでようやく体を恐怖によって竦ませた。
自分はどうなってしまうのだろう。
このまま死ぬのだろうか、それまで一体どれほどの苦しみ我慢しなければならないのだろうか。
目の前の未来は明らかに暗く淀み、自分の立ち位置さえ見失わせる。
だからだろうか…彼女は自分に伸ばされていた船員の手に勢い良け噛み付いた。
当然振り払われ突き飛ばされ背中を強く打つ。
船員達が何かを怒鳴る。
だがもうどうでもいい。早く殺せ。早く終わらせてくれ。
苦しみたくなんか、無い。
「へぇ…面白い子がいるじゃない。」
「お頭!」
急に聞こえた声に、船員達の動きが止まった。
声の主である、扉に寄りかかるようにして立つ左目を隠すように前髪を伸ばした16歳くらいの男は、他の者とはどこか違う空気を発している。
彼が羽織るコートのせいだけではない。
そういえば先程“お頭”と呼ばれていた。
きっとそういう事なのかもしれない。
ぼんやりアーリアが考えていれば、アーリアを品定めするように眺めていたお頭…つまりライノルズ・フィラデルフィアは、彼女の顎を掴んで無理やり上体を起き上がらせた。
無理な姿勢に顔を歪めるアーリアを気にもとめず、そのままニィと笑顔を浮かべる。
「いいよ、この子僕が貰う。結構可愛いしね。」
「相変わらずロリコン趣味…」
「うっさいよ。」
ぐいと乱暴に引っ張られて、転びそうになりながらライノルズに手を引かれる。
コンパスの差を気にせず歩くライノルズを睨みながら、アーリアはそれを振り払おうとするが効果はない。
結局ライノルズの自室と思われる場所に連れて行かれ、そして無造作にベッドの上に放り投げられた。
再び睨めば、彼は無感情に彼女を見下ろし自分の服を脱ぎ始める。
これから彼が行う事など7歳の彼女には全く見当もつかなかったが、とにかく何かが嫌で怖くて気持ち悪くて…だから彼女は、泣きそうになりながらも彼を睨んだ。
「…っまえ、なんか…!」
「恨み言なら、後でいくらでも聞いてあげるよ。暗い暗い、部屋の中でね。」
それはそう、長い夢の始まりだった。