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「幸福の子供っていうのは、まあ簡単に言えば幸福の人形みたいな物だよ。持ってるだけで幸せになれる、みたいな、そういうの。」
ラルドが引きこもっていた5日の間、ライノルズがそう説明していたのを思い出す。
あの時はまた馬鹿な貴族の勝手な妄想かと軽く流したが、確かにその翼のような痣は天使のようだと思った。
赤黒いというよりはまだ淡やかな色の、海の上で生きる事を義務付けられた人間に与えられた天使の翼。
きっと、彼にとっては重みでしかなかった物。
小さく震える体に、アルヴァートは少し無神経だったなと先程の自分を恥じた。
この幼子の気持ちに気付いてやれないなんて、大人として未熟だと。
彼は知らなかったのだろう。自分達がすでにその背中を見ていた事を。
だからまた、こんな物で価値を与えられるのではないかと恐れた…そう考えるのは簡単だというのに、気付くのは難しい。
そっと、その背中を撫でてみる。
ビクリと体を強ばらせた彼に、やはりどうしようもなく申し訳なくなって…アルヴァートは、そのまま屈んでラルドのこめかみの辺りにそっと唇を落とした。
予期していなかった行動にそこを押さえて見上げれば、アルヴァートの顔は存外近くにあって今度は前髪をかきあげて額に唇が押し付けられる。
「…っ!?」
「…もっと、ラルドでいていいんだからな?」
目を見張ったラルドにそっと微笑んで、その小さな体を抱き上げる。
呆然とアルヴァートを見上げるラルドにふわりと自分の予備のワイシャツを着せて、彼の髪留めと自分のリボンを帽子の所に置いた。
それから彼をベッドに寝かせると自分も中に入り、ぽんぽんと頭を叩くように撫でる。
「よし、寝ようか。子守歌でも歌うか?」
「…べつに、いい。」
「じゃあ歌うぜ?かー、かー、カーラスこい、こっちのみーずはあーまいぞー。」
ラルドの言葉を無視して始まった歌は、歌詞も適当であればリズムも適当である。
だが心地良い声はどこか癖になるようで…そんなナチュラル音痴な歌声に、うとうとと瞼が下がる。
心地良い暖かさと、歌声と、穏やかな波に揺れる船。
今日出会った色んな人達に、初めて貰った言葉達。
今日は穏やかな夢が見れるだろうかと、ラルドはそっと意識を沈めた。