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穏やかな波の音に混じって、人々の悲鳴じみた声が聞こえてくる。
続けて響く規則正しい銃声に金属と金属がぶつかる音。
バタバタと大きな物が倒れる轟音。

そんな音が飛び交う中で、一人。
彼女は広い食堂の中で優雅にケーキを口に運んだ。
口の中に広がる甘い味にふわふわとした食感。程良く甘い香りに自然と頬が緩む。

ゴツリ、後頭部に当てられた堅い感触に、彼女は一度ケーキに伸ばした手を止めた。


「甘いスイーツをお楽しみの所すまんな。今すぐ海に逃げるか殺されるか選んでくんねぇか?」


暫くの間沈黙して、彼女はザクリとケーキにフォークを突き刺す。
残っていたケーキを一口で平らげて、それからようやく言葉を返した。

低く、聞き覚えのある女性の声で。


「…戦ってあなたを捕まえる、という選択肢は無いんですか?」

「それ、叶うと思ってんの?」

「えぇ、思ってますとも。」


静かに言葉を交わした次の瞬間…二人の間に金属音が響いた。
彼女がテーブルの下に忍ばせておいたらしい剣…しかも、この辺りでは見ない東洋の“刀”と呼ばれるそれで斬りつけたのだ。

すぐに銃でそれを防いだ彼に、今度は先程まで座っていた席のテーブルクロスを投げつける。
ガシャンと食器が落ちる音が響いて、それに視界を奪われまいと一度大きく後ろに跳ぶ。

もちろん発砲しながら。
しかし彼女もそれを読んでいたのか、刃で弾いて一気に距離をつめる。


「相変わらずいい武器使ってんなぁ海軍さんよぉ!」

「わざわざあなたの為に東まで行って来ましたからね!」


大声で言葉を交わしながら、近付いて来た彼女に容赦ない蹴りを繰り出す。
それを屈む事で避けた彼女の腕に一発撃ち込んで隙を作り、近くのテーブルを蹴り上げて彼女の追撃を防いだ。

ちっと舌打ちをする彼女は、だがビリビリと自分が着ていたドレスを破きだしてそれを腕に巻き付ける。
その下から見えるのは海軍の制服だ。
わざわざ着込んでたのかよと口笛を吹いて、ジャキリと得物を構える。

彼女も彼も、互いを見て強気に笑う。


「今日こそそのウザったい首を落として差し上げますよAAA(トリプルエー)」

「すまんな、最近来た可愛い子が俺の帰りを待ってるから無理な話なんだよツィーツィラさん?」


そう軽口を叩いて…アルヴァート・アラン・アヴァンシアとアーリア・ツィーツィラは床を蹴った。