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ライノルズに夜通し遊ばれて、気持ち悪くて夜明け頃に目を覚ます。

夜明けの空は綺麗だ。
今日新しく生まれた太陽は眩しく、そこにある物全て黒いシルエットに変えていく。

黒い黒い、影を生む。
全てただの黒に変えて全てただの影に変えて、それがなんだかとても、救いのように思えて。


ついと、横で眠るライノルズを見る。
ここは一応彼の自室なのだから、彼がここで眠る事は何もおかしくない。
しかし彼は朝が早いのか、こうしてアーリアが目覚めた時に横にいるのは珍しい事であった。

眠っていれば16歳の子供らしい顔をするくせに、とライノルズの首に爪を立てる。
そんな事で彼を殺せるわけがない。
ここに剣があれば、刃が、銃があれば、今すぐにだって殺してやるのに。


「…」


机の上に、鈍く光る物を見つけた。
アーリアは何かに引かれるようにベッドから下りて、痛む体を堪えながら鈍く光るそれを手に取った。

銃だ。
ライノルズが使う銃。

ずっしりとした重さがやけに生々しく、アーリアはそれを手の中で眺めて安全装置をガチャリと外した。
そのまま迷い無くライノルズの頭にそれを押し付けて、無表情に構える。


…殺してしまえ。
今すぐこの銃を使って殺してしまえ。
自分を苦しめる元凶であるこいつを殺してしまえ殺してしまえ殺してしまえ殺してしまえ殺して殺して殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺殺殺…

そう思うのに、僅かに震える指先が言うことを聞かない。
じんわりと滲む汗に息を飲む。

早く、早く撃たないと。


「撃たないの?」


ビクッと大袈裟な程体が跳ねる。
起きていたらしいライノルズはニタニタと笑ったままアーリアの手ごと銃を撫でた。

自分はまるでいい人だとでも言いたげな胡散臭い笑顔。

彼は愉しそうにアーリアを見る。


「今日だけだよ、それを分かり易く置いてあげるなんて。今日しか君は、僕を殺せないんだ。」


殺してしまえとアーリアの胸の底から声が膨れ上がった。

殺してしまえよ今すぐ今すぐ今すぐ!今しか無いんだ今殺さないと今やらないとじゃないと私はずっとこのままずっとずっとずっとずっとずっと!!
さあ早く殺してしまいましょうよ無理だ殺せないだって殺したら私は人殺しだ人殺し人殺し人殺し嫌だそんなのなりたくないでも殺さないと壊れちゃう終わらない終わらないのだから早く、早く早く早く早く無理だだって、だって彼は、笑ってる。


「時間切れ。はい、もう寝なさい。」


ひょいと銃を取られて、あっさりとライノルズの腕の中に落ちた。

殺せなかった。
どうして?怖かった。
躊躇ってしまった。

悔しいのか良かったのかそれすらもうわからなくなって、アーリアは泥の中に落ちるように眠りについた。