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一年近く船に捕らわれて、いくつか知った事がある。
例えばこの船に乗る海賊はさほど仲が良いわけではないということ。
敵味方関係なくいくつもの船を沈めたこの船の名前は“オシリス”ということ。
ずっと昔から誘拐を繰り返していて、つい最近“忌み人”と呼ばれる子供を解放したこと。
ライノルズの左目がほとんど見えないということ。
ライノルズが、思っていたよりずっと普通だということ。
「アリアちゃんは甘い物が好き?」
「…あなたは甘い物を作るのが好きなんですか。」
「まあね。」
目の前に置かれた彼手作りだというケーキに、一体この船の食料はどうなっているのやらと不思議に思う。
ライノルズを殺せなかったあの日以来、彼はこうして偶に自分が作る甘味をアーリアに持って来ていた。
「美味しい?」
「最低。」
「そりゃ手厳しいねぇ。」
嘘だ。
ライノルズの作る甘味は程良い甘さでとても美味しい。
他の料理は吐いてしまう程だというのに、とぼんやり考えて、ケーキを口に運ぶ。
甘い。
美味しい。
だから最低だ。
「…最低。」
嬉しそうに笑ってしまいそうになる、自分なんか。