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すたすた。
パタパタパタ。


「なあなあアルヴァート、ちょっと話があんねんけど。」

「うるさい知るか。つか呼び捨てにすんなよ。」


すたすたすたすたすた。
パタパタパタパタパタパタパタタ。


「ええやないの呼び捨てくらい!じゃってうち、あんたのお母さんじゃもん。」

「俺は認めてない。」

「将来的にはなるもん。」

「ならない。」


すたすた…きゅっ。
靴を滑らせて、アルヴァートはくるりとヴェルディに向き直った。

ずっと彼の後ろをパタパタと追いかけていた彼女は、それに抱えていた洗濯籠を脇に抱え直して少しだけ嬉しそうに笑う。


「あんた本当にしつこいな。つか俺のパンツ持ったまんま歩き回るな。」

「ああすまん、洗濯取り込んだとこじゃったから…アルヴァートがうちとお話してくれんのがいけないんじゃよ。」


だから沢山うちが話すの。

ニコニコと笑うヴェルディにアルヴァートはどうでもいいと鼻で笑ったが、21歳になった彼がラルドに対し同じ理屈で接するようになっている事を、当時10歳の彼は想像だにしていなかった。

とにかくヴェルディは嬉しそうに空を仰いで、眩しそうに目を細める。


「今日はいい天気じゃねぇ。って事で、一緒に怪談話でもせん?」

「嫌だ。つか天気と関係ないだろ。」

「けち。でもま、いいわ。今日はアルヴァート、逃げないでくれとるもんな。」

「は?」


くふふ、と笑うヴェルディを一笑するが、少しその意味を考えてアルヴァートはかあっと顔を赤くした。

いつもはとっくに彼女を振り切るか完全無視の体制に入っているはずなのに、自分は今も彼女と会話をしている。

たったそれだけの事なのだが、それが彼女としっかり関わっている事なのだと再認識して、アルヴァートはバチンとヴェルディを叩いた。


「気のせいだろ馬鹿!お前なんか嫌いだ!」


悔しい悔しい悔しい。
誰とも関わらないようにって決めたのに。

自分は一人でいいから早く終わらせてと、あの日あんなに願ったのに。

そう心中で繰り返しながら、アルヴァートはそこから走って逃げ出した。