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アルヴァートがヴェルディと共に暮らし始めて4年の時が流れたある日。
14歳になっても尚、未だにヴェルディとの距離を計りかねている彼は一人、夜の空を見上げていた。

幾つもの星が散らばる空に、この世界の底から見るそれはなんて美しいのだろうと毎度のように思う。
そこまで行けたら、なんて思うのに、その境界線を越えられない自分。

ヴェルディが気紛れに船を動かすので色々な場所を巡ったが、どこから見ても空は変わらないと、不変のそれに安心する。


「ほれ、アルヴァート。空なんか眺めてどーしたん?」


しかし最初からやはり変わらない彼女の態度にも安心を覚えている自分には、何故か腹が立つのであった。

そういえば空を仰ぎ見るのは彼女の癖じゃないかと気付いて、更に腹が立ってぷいと顔を背ける。


「別に、どうしようが俺の勝手だろ。いちいち過保護だな。」

「えー、うち過保護ちゃうよ。構ってほしいだけじゃもん。」

「18にもなって構ってちゃんでいんなよな恥ずかしい。一応お前が俺の保護者なんだからしっかりしろよ!」


“しっかり者の息子と少し抜けた母親”という図に見えない事も無い様子に、ヴェルディは隠すつもりもなく笑顔になる。

実際には年がそこまで離れているわけではないので姉弟に見えるのだが彼女は気にしない。

彼が理解していないだけで、二人はこの4年でそれなりに仲良くはなっているのだ。
ただ、それを“そう”と認識していないだけで。


「ああ、そうじゃ。明日はこの街出るからな。なんでも海賊が来とるんじゃって。」

「海賊ぅ?」


思い出したように言った彼女に、アルヴァートは思い切り顔をしかめる。

海賊が来てる割にはなんの騒ぎもなく、実に平和だなオイという感じの街だ。

現在留まっているモネウィルドはそんなに暢気なのかと無言で問えば、彼女はそれをキチンと汲み取って答えを返す。


「なんじゃっけ…海軍さんみたく言うとFR?とかいう海賊がここをホームにしとるんじゃと。さっきお向かいさんが言うてはった。」

「ふーん…」


ホームをわざわざ荒らしたりする必要はないからな、と理解して、それから暫し考えるように無表情でいて…ニヤリ。
彼は、笑った。