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「なんだ、ガキか。」
「…」
自分の顔のすぐ真横の壁に突き刺さった刃に、アルヴァートはゴクリと唾を飲み込んだ。
あの後、すぐに家を抜け出して上手く噂の海賊船に侵入したのはいいが、中の探検中にこうして捕まったのだ。
目の前の男はアルヴァートを興味深そうに見つめて、にたりと優しく…刃を向けているので胡散臭いとしか思えないのだが…笑う。
「凄いねぇ、いくら今人がいないからって中に入るなんて。どうしてここに来たの?」
「…海賊ってのがどんなんか気になったから。」
「それで来たんだ、随分と命知らずだね。」
「そんなに未練とか無いからな。」
嫌なガキ、と心中で結論付けて、男はズルリと刃を壁から抜き取った。
興醒めしたとばかりにつまらなそうにそれで遊んで、投げやりに問いかける。
「それで?どうだい感想は。」
「ちょっと憧れた。」
「なんで?」
「守りたいもんを守れるんだろ?」
きょとん、アルヴァート少年の答えに目を瞬かせる。
「自分勝手で自由って、自分が決めた事を貫き通す奴じゃなきゃ出来ねえよ。そういう所がアイツっぽい。」
だから憧れた。
そう呟いた彼が思い浮かべているのは間違いなくヴェルディだったが、きっと彼はそれを認めないだろう。
何故なら、その答えに目の前の男が爆笑したから。
腹を抱えて大声で笑う彼に、アルヴァートはカアァッと顔を赤らめて怒鳴る。
「なっなんだ!てめぇ笑うとか失礼だぞこのオヤジ!」
「僕はまだ21!若いから!」
「知らねえよんなもん!」
ひいひいと笑った彼はその後浮かんだ涙を拭うと、心底愉しそうにアルヴァートの顎を指で撫でる。
そして海賊FR…ライノルズ・フィラデルフィアは、アルヴァート少年にニヤリと笑ってみせた。
「気に入ったよ君。君が望むなら海賊にしてあげたっていいよ?」