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「ダメ。」
一言、それだけを言ってヴェルディはカップに注いであったお茶を一口飲んだ。
アルヴァートがライノルズの船から帰って来て、海賊になりたいと言ってすぐの反応だ。
あまりの即答ぶりにアルヴァートは思わずムッとして、反抗的な態度でヴェルディを睨みつける。
「なんでだよ。別にいいだろーが。」
「あかん。ダメじゃ。許さへん。」
「だからなんでだよ!」
「危ない事にあわせとうない。理由はそれだけじゃ。」
「そんな心配する必要なんかねぇだろ。大体今だって旅しまくって、あんま変わんないじゃんか。」
「今はうちが一緒だからええんじゃ。自分の家族心配したらあかんの?」
今まで見たことがないくらいに淡々と、はっきりと否定する彼女に思わずたじろぐ。
だがそんな態度は慣れている。
彼女がやらなかっただけで、他の人にはよくやられていたじゃないか。
そう言い聞かせて、絞るように声を出す。
否定したくて、自分の為に。
「…俺は、今だってあんたを丸ごと信じてなんかいねえよ。きっと今にも捨てられるんだ。…どうせいつか手放されるなら、今度はおれがこの手を離す。あんたが拒絶しないなら、おれがする。もう嫌なんだ、こんな温い場所。」
言い終わるか終わらないかの所で、バシンという音が響いた。
少し遅れて頬に走った痛みに、アルヴァートは自分がヴェルディに叩かれたのだと気付く。
もちろん、こんなのは初めてだ。
呆然とすると同時に込み上げる反抗的な怒りに顔を上げて…アルヴァートは、息を飲んだ。
はたはた、零れた雫が静かにテーブルを濡らす。
「なんだって、あんたはそう…っ」
「ぇ…」
「なぁ、うちがいつあんたが嫌い言うた?あんたを捨てる言うた?信じる信じないなんかもうどうでもええ、けど!けどうちは!うちはアルヴァートと家族じゃ思ってるんじゃ!それだけは否定したらあかん!知るつもりがないなら、否定だけはしたらあかんの!」
ぼろぼろぼたぼた、涙を零しながら叫ぶようにしてそう“叱る”彼女から、アルヴァートは目をそらす事が出来ない。
こんな彼女を、彼は知らない。
こんな風景を、彼は知らない。
知りたくなかった。
自分にはっきりと向けられる“それ”を、知りたくなかった。
「別に丸ごと信じてなんかくれんでいい。でも、でもな、キチンと知っとって。あんたが思う程世界は酷くなんかなくて…ただあんたが知らんだけで、あんただって幸せなんだって、知っとって。うちが、あんたを好きじゃっちゅう事は、知っとって。否定、せんといて…」
そう吐き出したヴェルディが、自分の従姉妹が。
そのまま部屋を出て行くのを、ただ呆然と見送る事しか出来なかった。