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「…それで、君はアヴァン坊やの保護者様?」
船の壁に寄りかかって、ライノルズは挑発的に彼女を見た。
自分達の元に訪れた目の前の彼女は、真っ直ぐな目で自分を見て来る。
それは先日会った子供とそっくりな目だった。
「子供は自由にさせとくべきだと思うんだけど、そういうのはダメなタイプ?」
「別に、うちかて好き勝手やっとるもん。ほんな事は言わんよ。ただ、強さに憧れてるのか単純にうちが嫌いなのか…それだけははっきりせんとモヤモヤしてまうから。」
彼女…ヴェルディはそう言いながら後ろに持っていた布袋からズルリと長斧を取り出す。
どうやらアルヴァートを預けて大丈夫なのかを戦って決めるつもりらしい。
見たところ特に鍛えているわけでもないから、本当に護身程度にしか動けないのだろうが…意外と強情らしい。
そういう強気な態度は嫌いではないと、ライノルズは唇で弧を描いた。
「君がもうちょい小さかったら、凄い楽しくなったのになぁ。」
「うわー、ロリコンの変態さんなん?苛めるより愛でる方が将来的にも楽しくなるで?」
「なんだ、似たような方?」
くすくすくすくす、笑い合う。
互いに武器を構えて、穏やかに。
余所から見れば何をやっているのかイマイチわからないその状況を見る者も、そりゃあ真っ昼間というわけなのだから沢山いるのであって。
(…なにやってんだあいつら。)
アルヴァートもその一人だった。
いっそヴェルディに置き手紙だけ残して出て行くべきか相談に来た彼は、並ぶ二人に戸惑いを覚えてそこに立ち止まる。
今出て行くべきか否か。
果たして。
ふと、二人から少し離れた場所…ライノルズが所有する船、オシリスの船の上から下を覗く小さな影に気付いた。
どこかあどけない、ふわふわした空気のそれは少年らしく、ライノルズとヴェルディを眺めている。
そういえばライノルズは誘拐とかもやっていると言っていたなと思い出し、彼もその被害者なのかとぼんやり思う。
そして、ズルリとその少年が腕を滑らせてそこから落ちるのが見えた。
「あぶな…!」
思わず走り出して、海に落ちた彼を自分も飛び込んですぐにその手を掴む。
冷たい水に体の中身が軋んだ気がしたが、それを無視して腕を動かし水面に上がる。
ぶはっと息を吐けば、気付いたヴェルディが真っ先に駆け寄ってくるのが見えた。
それに無意識に頬を緩ませて、ケホケホと咳する少年を桟橋に登らせる。
「アルヴァート大丈夫け!?そっちの可愛い男の子も怪我は!?」
「別に。」
「ら、らいじょうぶれす…」
そう返せばヴェルディはほうっと息を吐いて、「良かった…」とアルヴァートを抱き締めた。
止めろよ恥ずかしい、と突っぱねようとするが、彼女はぎゅっと力を込めていてなかなか離れない。
仕方ないので諦めれば、くいと横から服を引かれる。
見れば、助けた少年はへにゃりと笑みを浮かべていた。
「ありがろう。」
「え、あ、おう…」
「無茶するんだねえ。そういうのとは無縁だと思ってた。」
「うっせ。」
「まあいいや。それで?」
まるで茶化すように話しかけてきたライノルズにアルヴァートはムッと言葉を返したが、その質問にサッと表情を固める。
彼は言っているのだ。
本当に自分についてくるのか?
それならば、今ここで彼女に理由ごと宣言しろと。
それは至極単純な事で…そして、とても勇気のいる事だった。
「…守られるのは嫌なんだ。どうやったって不安だから。信じるのが怖い。そんな自分も大嫌いだ。世界なんか早く終わればいい。あんたなんかと生きたくない。」
震え、戦慄きそうになる口で必死に言葉を紡ぐ。
また、大嫌いだと彼女を拒絶する。
そして、願った。
「だから、守りたい物は、何が何でも自分で守る場所に行きたいんだ。じゃなきゃあんたの家族になんかなる資格、俺は自分に認められない。俺は、俺にならなきゃいけないから。」
願った。
こう在りたいのだと。
願った。
こんな自分でも受け入れてほしいと。
願った。
こんな自分は否定してほしいと。
「だから俺、海に出るよ。止めたって何したって、もう決めたから。」
そして彼女は、彼は、その言葉にそっと、目を伏せるのだった。