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「良かったのか?いきなり海賊解散なんかやって。」
「いいのいいの。僕って16歳から海賊やってるけどみんな年食ってるせいか独立したがってたしね。悪行三昧も飽きたし、丁度いいよ。」
「でも、足…」
「…丁度いい罰だよ。」
そう笑ったライノルズに、アルヴァートはそれ以上声はかけずに自分の荷物を船に放り投げた。
それはあのいくつもの船を沈めたというオシリスの名の船ではなく、ライノルズが新しく用意した船だ。
アルヴァートが少年…ディランを助けたその後、ライノルズは海賊FRを止める事を宣言し、アルヴァートとディランと三人で新しく海に出る事を決めた。
海賊というよりはただ自由な航海者という流れだが、14歳の船長にはそれくらいが丁度いいだろう。
「てゆうか、そっちはちゃんと解決してきたんだよね?」
「あー…いや、会話が…」
無かった、と続けようとして言葉を切る。
港の入り口にヴェルディの姿を見つけたのだ。
結局、キチンと話す事を避けて出て来たアルヴァートには気まずい以外の何物でもなく、近付いてくる彼女に彼は気まずそうに目をそらす。
「あ、え、と。」
「うち、考えたんじゃけど。」
「なにを。」
「“かいぞく”から“い”やな事抜いたら“かぞく”になると思わん?」
「………………………は?」
真顔で言い出したヴェルディに、身構えていたアルヴァートは一気に力を抜いた。
彼女は一体何の話をしているのだろうか。
それを理解する前に彼女はライノルズに向き直って、深々と丁寧にお辞儀をする。
「ライノルズのおっちゃん、アルヴァートの事よろしく頼みます。」
「僕まだ21だからね。」
「うちはモネウィルドに居りますから、ディランくんとかに何かあったらすぐに寄ったってください。」
そう、船中にいるディランへの言葉も織り交ぜてから、改めてアルヴァートに向き直る。
彼女は真っ直ぐに、しっかりと彼を見て、柔らかく微笑む。
「…あんたが幸せなら、うちも幸せ。あんたがうちを幸せにした分、うちもあんたを幸せにしたい。家族になりたい。じゃから嫌な事はあんません海賊になったってな。」
信じてるから、だから家族として待ち続けるよ。
「いってらっしゃい。」
笑った彼女のそれは、明らかに“家族”に向ける笑顔で。
アルヴァートは、それを初めてしっかりと見た。
もう目はそらさなかった。
ただ無言でポケットから彼女のカチューシャと同じ色のリボンを取り出して、それをずいとヴェルディに押し付ける。
「やる。」
「おお、ありがとうな。」
「ん。行ってくる。」
そしてそれだけの言葉を交わした。
ライノルズの共に船に乗り込む背中に、ふと、彼が今言った言葉を繰り返す。
行ってくる。彼はそう言った。
なんだ、まるで家族じゃないか。
くしゃりと笑って、ヴェルディは大きく手を振る。
これから旅立つ自分の子供に、笑顔で。
「いってらっしゃい!」
それがこれからも続く事を、彼女はちゃんと、信じてた。