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急に差し込んだ光に、ずっと暗い場所にいたアルヴァートは思わず目を瞑った。

扉が開いたらしい。
開けた人物も暗闇に目を凝らしているようだったが、やがて小さく息をついたのを感じた。

アルヴァートも、だんだん慣れた目で光を背負う人物を見る。
小さな人物は、彼の名を呼んだ。


「…アルヴァートっ!」


聞き慣れた声が響いて、それは一歩前へ踏み出す。

ところが、それはすぐにべしゃりという音と共に倒れ落ちた。
入り口の前には階段があるのだ。
決して高いというわけではないが、小さな彼には少しばかり痛い衝撃だっただろう。

アルヴァートは彼に、“そうでなければいい”と“そうであってほしい”という矛盾した願いのようなものを抱えながら、彼の名を小さく呼んだ。


「…ラルド?」


それに答えるように彼は立ち上がって、少しふらついた足取りでアルヴァートの方へと歩いて来る。

よたよたと鎖に繋がれたアルヴァートの所に辿り着いた人物は確かにラルドだ。
それをハッキリと認識して、アルヴァートは呆然と彼を見る。

どうしてここへ。
どうやってここへ。
何故、こんな所に。


「んで、お前…」

「お、れはっ、」


吐き出すように言葉を発するラルドは、ガシャガシャと鎖を探って鍵穴を探しているようだ。

鍵穴を探しながら、だがラルドは必死に言葉を紡ぐ。


「おれは、あんたにいっぱい貰ったんだ。おれをラルドにしてくれた。いっぱいいっぱい、笑ってくれた。」


ガシャリ、ラルドの手が止まる。
鍵穴を見つけたのだろう、何故かポケットから鉄の鍵を取り出して、ラルドはしっかりとアルヴァートを見た。

まだ真っ直ぐに向き合うのは苦手なのか、今にも泣きそうに潤んだ目は、だが目をそらそうとはしない。


「沢山貰ったんだから、おれだってあんたに沢山あげたい。おれがあんたの物だって言うんだったら、」


鍵が外れる音がする。

ずっと固定されていた腕が、ずるりと解放されて下に落ちる。

言葉が、紡がれる。



「アルヴァートは、ラルドの物だ。」



だから来たんだ、と言外に含まれるそれに気付いて、アルヴァートは一瞬泣きそうになって…そして、不格好に笑った。

声を上げて笑う彼に、当然ラルドは心外だとばかりに頬を赤らめてアルヴァートを睨む。


「な、なんだよ、笑うなぁ!」

「いや、わり、だって…!」


ぽん、優しく頭を撫でられる。
いつもの事。
久しぶりの事。


「…ありがとな。」

「…ん。」


小さく呟いた言葉に、小さく言葉が返ってくる。

嗚呼、とアルヴァートはかつての幼い自分と、ずっと傍にいたかつてのヴェルディを想った。

本当に、幸せは繋がったみたいだ、と。