98
急に差し込んだ光に、ずっと暗い場所にいたアルヴァートは思わず目を瞑った。
扉が開いたらしい。
開けた人物も暗闇に目を凝らしているようだったが、やがて小さく息をついたのを感じた。
アルヴァートも、だんだん慣れた目で光を背負う人物を見る。
小さな人物は、彼の名を呼んだ。
「…アルヴァートっ!」
聞き慣れた声が響いて、それは一歩前へ踏み出す。
ところが、それはすぐにべしゃりという音と共に倒れ落ちた。
入り口の前には階段があるのだ。
決して高いというわけではないが、小さな彼には少しばかり痛い衝撃だっただろう。
アルヴァートは彼に、“そうでなければいい”と“そうであってほしい”という矛盾した願いのようなものを抱えながら、彼の名を小さく呼んだ。
「…ラルド?」
それに答えるように彼は立ち上がって、少しふらついた足取りでアルヴァートの方へと歩いて来る。
よたよたと鎖に繋がれたアルヴァートの所に辿り着いた人物は確かにラルドだ。
それをハッキリと認識して、アルヴァートは呆然と彼を見る。
どうしてここへ。
どうやってここへ。
何故、こんな所に。
「んで、お前…」
「お、れはっ、」
吐き出すように言葉を発するラルドは、ガシャガシャと鎖を探って鍵穴を探しているようだ。
鍵穴を探しながら、だがラルドは必死に言葉を紡ぐ。
「おれは、あんたにいっぱい貰ったんだ。おれをラルドにしてくれた。いっぱいいっぱい、笑ってくれた。」
ガシャリ、ラルドの手が止まる。
鍵穴を見つけたのだろう、何故かポケットから鉄の鍵を取り出して、ラルドはしっかりとアルヴァートを見た。
まだ真っ直ぐに向き合うのは苦手なのか、今にも泣きそうに潤んだ目は、だが目をそらそうとはしない。
「沢山貰ったんだから、おれだってあんたに沢山あげたい。おれがあんたの物だって言うんだったら、」
鍵が外れる音がする。
ずっと固定されていた腕が、ずるりと解放されて下に落ちる。
言葉が、紡がれる。
「アルヴァートは、ラルドの物だ。」
だから来たんだ、と言外に含まれるそれに気付いて、アルヴァートは一瞬泣きそうになって…そして、不格好に笑った。
声を上げて笑う彼に、当然ラルドは心外だとばかりに頬を赤らめてアルヴァートを睨む。
「な、なんだよ、笑うなぁ!」
「いや、わり、だって…!」
ぽん、優しく頭を撫でられる。
いつもの事。
久しぶりの事。
「…ありがとな。」
「…ん。」
小さく呟いた言葉に、小さく言葉が返ってくる。
嗚呼、とアルヴァートはかつての幼い自分と、ずっと傍にいたかつてのヴェルディを想った。
本当に、幸せは繋がったみたいだ、と。