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ゴーンと、鐘が鳴った。

どこか錆び付いた重苦しい音。
それがマレステラの塔の頂上から聞こえてくるのだと気付いて、船中でディランは緩やかに微笑んだ。


「…センチョ、無事に逃げられたのかもらね。」

「かもね。船長くらいでしょーこんな時に鐘なんか鳴らすのは。」


自分達の頭の無事を本能的に感じて、船を取り返した海賊達は強気に笑う。

繰り返し襲ってくる衝撃に足をふらつかせながらも、その目に諦めや不安を宿す者は誰一人としていなかった。

再び衝撃。
先程から塔の周りをぐるぐると回る彼らに向けて、海軍の船が砲撃してきているのだ。
あの貴族じみた船を視界に捉えて、カタリーナはイライラとそれを睨む。



「誰だよあの船!上手く距離取りやがってムカつく!だから海上戦は嫌いだ!」

「落ち着んだ姉御。多分グローカス大尉だべ。」

「グローカス大尉ぃ?」


誰だそれ、と彼女は吐き捨てる。
実際彼女は会った事がないのだから当然の反応だ。

海上戦でだけ実力を発揮する大尉なのだとソンが説明するのを聞きながら、舵を取っていたディランはカタリーナを呼ぶ。


「リナ。リナはノイズ迎えに行ってよ。」

「オヤジ?あいつ来てんの?つかどこに居んのさ。」

「多分ヴェルやラルも来てるよ。ノイズはきっと大佐と一緒に瓦礫の下。」


まるで打ち合わせでもしていたかのように彼らの状況をぴったりと言い当てる。
当然それに気付かないカタリーナだが、ディランのそれは信用出来ると頷いた。

ディランはこの海賊の一番最初の三人の一人なのだ。
彼らの行動を一番よく知っている。理解している。

カタリーナは自分の銃を腰のホルダーに入れて、髪をかき上げた。


「…ふーん。わかったよ。海上戦じゃアタシは役立たずだしね。頼んだよみんな。」

「オッス!」

「姉御!一発なら誤射っすからね!」

「あいよ殴ってくる!」


片手を上げて声を返して、船が塔の近くに寄った瞬間に飛び降りる。

それをしっかりと見送ってから、船員達は皆思い思いに体を解し始めた。


「なーんか宝物を争ってるみたいで盛り上がってきたんでね。」

「そうらねー。スッゴく海賊ぽい。ふふ、なんらか楽しいね!」


「ディラン!砲撃準備整った!」

「りょ!」


そう笑うディランは珍しいくらいに上機嫌だ。

そして船を動かして配置につかせると、対峙するエルトゥリの船を視界に入れて…そして、ずり落ちた眼鏡を上げながら、笑った。


「沈めちゃえ。」