魔法少女は恋をしない

「……というわけで! ここに捕まえた奴らには好きな人の名前を言っちゃう催眠をかけた!」
「どうしてそんなことを!?」
「俺様ちゃんが! 今! 猛烈に! 恋バナをしたい気分だったからだ!」

そのために出撃して来たんだぜ、ときらきらした笑顔で宣言するので、私は頬をひきつらせたまま二の句が継げなくなる。だって、ええ? 久しぶりに来た理由が恋バナを強制的にみんなとしたかったからって、どうなんだろう。
というか、そういうのはあんまり大勢でするものではないんじゃ……いや、私が陽葵に変なイメージがつかないようにと、あんまり積極的にそういう話に混ざらないからわからないだけで、そういうものなんだろうか。恥ずかしくないのかな。
反応に困っていると、ええっ、と周りの人がざわめくのがわかる。観戦している人たちは楽しそうだけど、蔓に絡まっている人たちはふざけんな、と声を上げていた。やっぱり大勢でしたら恥ずかしいって思う人、いるじゃん!

「なんてやつだ犬紳士め! やめろ! 俺は隣のクラスの……うおおーっ! 澄恋様が好きだーっ!」
「俺は一生姫川さんが好きです!」
「ゆ、優月さん! わたしあなたが……!」

喋らなければいいのに、と思うけれど、続々と叫び出すみんなはとんでもなく素直だ。それとも喋らない、という選択肢すら奪われているのだろうか。こんなこと言いたくない、という態度をしつつ、名前を叫ぶときは照れくさそうにしながらもちょっと楽しそうなので、もしかしたらこのどさくさに紛れて告白したい人たちなのかもしれない。
隣のクラスのすみれさんって誰だろう。
姫川さん、わかる。彩愛のことだ。可愛いよね。自慢の友達。
優月……は、先輩か。すぐそこにいるからその場で断ってるみたいだけど、手馴れてるしやっぱり顔はいいんだなあ。というか、地味に先輩は好きな人の名前を言ってないな。いや別に、気になるわけじゃないけど。

ちょっと聞き入っていると、犬紳士くんはよいせ、と片足をわざわざ高く上げてから足を組みなおして、あーそうそう、とにやついた顔で口を開いた。

「あ、別にここで叫んだからって実るわけじゃないし聞こえるわけでもないからそこは各々頑張れよ〜」
「どさくさに紛れて告白できるとかでなく!?」
「じゃあ俺たちなんのために大声出したんだ!」
「名前言うだけの催眠だって言ってるでしょ。大声で言えとも、告白しろとも俺様ちゃん言ってないモーン。そういう勢いでしか言えないからダメなんじゃない? やーい恋愛くそざこ、罵倒の仕方もざぁーこ、ざこ!」
「魔法少女! あいつなんとかして!!」
「あんなやつ吹っ飛ばせ―!」

けらけらとおなかを抱えて笑う犬紳士くんに、周りからブーイングが聞こえてくる。それはそうだ。結局意味もなく好きな人の名前を暴露しただけだし。恋バナをする、という段階にも至っていない気がするけれどいいのだろうか。
それにしても、簡単に話し出したりツッコミを入れたりと、なんだかみんな仲がいい。魔法少女は変身しているから顔バレする心配はないけど、やっぱり陽葵のイメージと違ったら困るからと、積極的に話しかけたりできないのに対し、彼らは結構こうやって気軽に煽る。顔をちょっと隠しているだけなのに強気だ。そのせいか、距離も近いのでもしかしたら人気で負けているかもしれない。
……いや、別に、悔しくなんてないけど。ちょっと、ちょーっと、気になっちゃうだけだ。

今もなおわあわあと騒いでいるみんなに苦笑しながら、ぱらぱらと魔導書を捲る。いつものように蝶が舞ってから、魔導書からしゅるりと蔓が這い出てきた。それはぐんぐんと成長して花を開くと、よいしょ、と花びらを飛ばす。
別に打ち合わせしたわけではないけど、激しく魔法を撃ち合うというより、こうしてだいたい同じような魔法を使って相手の起こした事件を解決するのが、魔法少女と悪の組織の戦いのお決まりだ。
お決まり、とは言うけど、適当に力を抜くと結構な怪我をさせられたり、普通に負かされることもあるので、お約束の展開だからと油断はできない。ウサちゃんも犬紳士くんも、ちょっと意地悪なので、負けたら罰ゲームみたいなことをさせられるのだ。ウサちゃんにあちこちくすぐられたときも大変だったけど、犬紳士がウサちゃんにせっかく作ったカレーを美味しくないと言われて拗ねていた時、そのものすごーく美味しくない手作りのカレーを食べさせられた時はつらかった。たぶん、今回は負けたら恋バナをしないといけなくなるのだろう。魔法少女のイメージ的にも困るので負けられない。
まあそんなこんなで。仲がいいのか悪いのか、もはや私たちの関係をなんと言えばいいのかわからないような関係が、今の私たちの距離である。
今回は花をメインにしているようなので、こちらも花のイメージの魔法を使うのがお約束だ。飛び出していった花びらは鋭さを増して、みんなを拘束していた蔓を切り裂く。緩んだそこからずるりと落ちる人たちの着地先には、もちろん花びらを敷き詰めておくのも忘れない。
どさりどさりと落ちれば、みんなは人質から解放されたというよりも、拘束されていた体が楽になったのが嬉しいとばかりにうんと伸びをした。のんきである。

「あーあ、あっさり」
「怪我させたいわけじゃないでしょ」
「まーね」

つまらなさそうに落ちて逃げていく人たちの背中を眺めていると、ふと、じーっと犬紳士くんを見上げている人がいることに気付く。
ファンかな、と思って視線を向けて、あれ、と思った。先輩だ。わりとよく事件に巻き込まれる先輩が、何故か犬紳士くんをじっと見つめている。どうしたんだろうと様子をうかがっていると、犬紳士くんもそれに気付いたようだ。一瞬、ひくりと頬を引きつらせた彼を見て、先輩はゆっくりと口を開いた。

「君はむつ、」
「おーっと、俺様ちゃんは今、可愛い可愛いワンちゃんだ。思うところがあっても、今後も一切、何も言わないでくれよ」

先輩がきちんと言葉を紡ぐより先に、再び蔓が先輩の体を持ち上げて犬紳士くんのもとへと引き寄せる。ずいぶんと遠慮なく引っ張ったらしく、先輩は口を閉ざしたのに、絶対に喋らせてたまるものかとばかりに、ぺちんと音がするくらいの勢いで口を手で塞いだ。
それから、わざとらしく顔を寄せて。するりと先輩の顎を撫でたところで、きゃあ、という黄色い歓声が耳に届いた。

「あ、でも、好きな人の名前なら言ってもいーよ。よく巻き込まれてるイケメンくん、君に好きな人はいないの?」

にっこりと笑うと、先輩が何か反応するより先に周囲から「知りたーい!」と声が湧き上がる。さっきの黄色い歓声とは別の声だ。どうやら、みんなで先輩の恋バナを聞こう、という空気になってきているらしい。
まあ、気にならないと言えば、嘘だけど。無表情な先輩だけど、少しだけ困っている様子がわかってしまったので、それを無視することはできない。そもそも謎にみんな一体感があって、ちょっと蚊帳の外だ。ほんのり寂しいかも……と思いつつ。でも変なイメージつけたくないしなあ、と、私はため息を吐いた。



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ごちゃ。