「でもそいつ、イケメンで飯も美味いんすよね? いわゆる優良物件ってやつじゃないっすか。別に噂になるくらい、いーんじゃないっすか?」
「そりゃあ、お顔がよくて成績も平均以上にできて、かつ、おうちのことも一緒に出来て甘やかしてくれる優しい人なんて、そんなにいないだろうけどねえ」
いろいろな感情を別にして考えれば大切にしたい相手だよね〜という言葉が聞こえて、うぐ、と怯む。
そんなことはもちろんわかっている。誰かを気にかけることができる人はすごい人だ。
先輩は「自分が人を甘やかすのが好きだから」と言っているけれど、だからって中学校に通う私に頻繁にお弁当を作ってくれたり、一緒に遊んでくれたり、勉強を教えてくれる高校生なんてそうそういない。私が頼む前から魔法少女の正体も、私が陽葵じゃないことも隠してくれるし、その手伝いだってしてくれる。いい人とかそういうレベルじゃないくらいいい人だ。
顔がいい、というのも、まあうなずける。表情筋が死んでてまったく表情が変わらないのも、クールだとかミステリアスだなんだと好意的に受け取られるくらいには顔は整っていると思う。
ただ、姉さんが長年天才美少女として世間を賑わせていたり、今もパソコンで作業をしている修さんもとてもかっこよかったりするので、あんまりピンとこないのだけど。私がやりづらくてたまらないだけで、世間的にはとっても、とっても、いい人だ。
「……ね、姉さんとか修さんだって顔がいいもん」
「修とか梢を世間一般の基準だなんて思ったらダメっすよ。そもそも梢は料理できないし、修もアレだし。参考にしたらダメっす」
「ひどぉい、聞きました?」
「聞きました。ひどいですね、そんな俺たちが大好きなくせに」
「ねー」
「誰がいつお前らを大好きだなんて言ったっすか!」
ディンを抱き込んだまま横から口を出すけれど、あっさりと流された上に三人の仲良しぶりを見せつけられて、ちょっと疎外感。いや、学生時代から仲がよくて、私よりも四歳か五歳年上の人たちなんだから、仕方ないことなんだけど。
そもそも姉さんが料理どころか掃除も洗濯もできないなんてこと、五年間一緒に暮らしているのだから知っている。好奇心に負けていろんなものを壊したりダメにするので、だいたいはディンか、定期的に玲生さんか修さんにお給料を渡してお願いしているのだ。姉さんは天才だけど、生活能力は竜に負けているのである。
そして私も、姉さんの弟らしく。一人だと好奇心にたびたび負けてしまうので、一人で台所に立つことは禁止されていた。いや、掃除とかはまだできるし、監視の目があればレシピ通りに行動できるので、まだマシ、なはず。
だからさっきの言い訳にあまり力がないことなんてきちんとわかっているけれど。置いてけぼりな感じがして少しだけ頬を膨らませて、ディンを放して。それから、深く深く息を吐いた。
「でも、まあ、そうだよね……陽葵の趣味にあうかはともかく、いい人だよね……」
先輩は誰が見ても尽くすタイプだ。基本的になんでも褒めてくれるし、ご飯は美味しいし、結構ノリもいい。紳士的なところなんて「俺もああなりたいな」と思うくらいにはスマートだ。すぐ人のことを赤ちゃん扱いしてくるのはどうかと思うけど。
正体をあっさり看破するくらい他者を見ているということは、こちらが言葉にできないことも察してくれるということだ。なんでも「いいよ」って承諾して抱え込みがちな陽葵のこともきっと気にかけてくれるし、甘やかしてくれるだろう。
「陽葵、あんまり人に頼るタイプじゃないから……ああいう、頼ってほしいって言ってくれて、助けてくれる人は好きなのかな……いや、でも、もっとこう、陽葵を一番に大切にしてくれる人がいいっていうか……いやでもまあ、そんな、見た目的にも……?」
陽葵は可愛い。他人だった私が見てそう思うのだから間違いなく可愛い。先輩と並んでもそんなに不釣り合いじゃないと思う。実際に並んでるところを見れないので想像だけど、陽葵ならもっと上手に先輩のことも御せるだろうし。
たぶん、そんなに、悪くない、と、思う、けれど。
「でもなんか二人が付き合うのってやだあ〜!」
「おーよしよし」
二人が恋人になる、と想像すると、ぐるぐるするというかもやもやするというか、とにかく言葉にできない感覚がして非常に嫌だ。とにかく嫌。絶対に嫌。それがどういう感情なのかもよくわからなくて、私は姉さんに泣きついた。
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ごちゃ。