そもそもどうしてそんな噂になったのだろう。
たまたま偶然、一緒にいる場面を見かけたから、と片付けるには、友達の反応が引っかかる。そういう噂になる相手は一人くらいしか思いつかないとか、やっぱりねとか、まるで「違うことは知っているけれど二人が付き合ってると勘違いする気持ちもわかるよ」と言わんばかりだ。反射的に嫌だと言ってしまった自己嫌悪で詳しく聞けなかったけれど、噂になっても仕方ない、と思われていることは純粋に疑問である。
確かに、私は先輩に可愛がられているという自覚がある。何かと気にかけてくれて、遊んでもらうことも多い。でもそこにあるのは「庇護欲」というやつのはずだ。先輩だって自分で「絢瀬のことを養子にしたいと思うくらいに可愛いと思っている」と言っていた。好きな女の子が相手に、自分の子供になってくれなんて言わないだろう。
そもそも先輩がそうやってお世話をしているのは私だけじゃない。お友達にも同じように接しているのを見ているし、たまに児童館や保育園のボランティアに行っては構い倒していると聞く。さらに先輩が暮らしている寮では炊事洗濯どころか勉強や相談まで受けていて、寮母さんよりも寮母しているという噂だ。その中にはもちろん女の子だっている。私だけが特別というわけではない。
「ぴゃぁ」
どこに特別さを感じたのだろうな、と考えながら歩いていれば、愛らしい声が聞こえたので足を止める。
ひょっこり。植込みの中から顔を出したのは小さな竜だ。ディンとは違って四つ足タイプの竜がぴりぴりと静電気を纏っているのを見て、私は周りに誰もいないのを確認してしゃがむと、こっそりと魔導書を取り出す。
ぱらりぱらり。ページをめくるごとにふわふわと蝶が舞う。蝶が集まって球状に密集した後、はらりと羽が解けて小さな手帚の形になった。手帚が勝手にふりふりと揺れると、小さな竜がじゃれるように飛び掛かる。ちりちりと火花が爆ぜるような音がするけれど、落ちる電気ごと手帚が絡めとっていくので怪我の心配はない。
「ぴ、ぴぅ、うう!」
「あはは、ひっくり返らないように気を付けてね」
手帚にじゃれついてしがみついた勢いで、後ろに倒れてしまわないようにそっと背中を支えてやりながら、その小さな隣人をのんびりと眺める。
彼らは、この竜胆島では当たり前に見かける生き物だ。
竜、と呼ばれているけれど、だいたい猫と大きさは変わらない。地域猫と同じように扱われて、そこかしこで自由に暮らしている、少し不思議な生き物。
むかーしむかし、この島を作った竜の力が今も島中に残っていて、自然の力と合体して一時的に形を得たものだ、と、修さんが教えてくれたことがある。だからこの島にしかいないし、風や水を操ったり、火をつけたりできるし、ある程度時間が経ったらどこかに消えてしまうのだ、と。
でもまあ、そんな理屈をちゃんと覚えているのは、彼らに関係する仕事をしている人とか、よっぽど興味のある人だけだ。
ずっと昔から一緒に暮らしている大切な隣人で、家族で、恋人で、そこにいて当たり前の生き物である、ということだけが、この町での共通認識だった。
それから、これはちょっと余談だけど。
竜は小さいから、その強い力が貯まりすぎると体に悪いのか、たまに悪戯のように事件を起こすこともあるから、そういう子を見かけたら魔法を使って軽く発散させてやるのも魔法少女の仕事だ。むしろ、陽葵はそういう活動をしていたようで、「竜の事件を解決する魔法少女」の噂が六年くらい前からずっと流れていた。
そして今、魔法少女の権利関係を握っている姉さんの研究所は、この小さな竜の有り余った力を新エネルギーとして活用するための技術開発をしているらしい。
彼らがこの溢れる力で不便な思いをしないように、暮らす人たちが怪我をしないように、余っているなら有効活用しようと、ディンを通していろんな小さな竜とコンタクトを取っている……というとちょっと実験施設みたいなイメージが浮かぶけど、実際は小さな竜たちが集まって気ままに遊んでいるところに、ほんの少しだけ力を借りるという形を取っているのだとか。
君もそのうち姉さんのところへ行って一緒に遊ぶといいよ、と声をかけながら背中を撫でれば、はぐはぐと手帚に噛み付いていた小さな竜はまあるい目で私を見上げた。
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ごちゃ。