一回目のタイムアウトを皮切りに、誠凛も巻き返してきた。
火神のキレがあるチェンジ・オブ・ペースからドライブの切り込みに、観客が沸く。その後も、古武術を使いこなす正邦のバスケスタイルに苦戦しつつ、黒子のディフェンスの裏からのパスや火神の高いブロック、首相のスリーポイントと勢いは増し続け、第一クォーターは19対19の同点で幕を引いた。
優乃は背もたれに体を預けて、一息つく。彼女が主に分析しているのは正邦側の動きだが、当たる可能性がある誠凛の動きにも当然気を配っている。
「優乃っちもお疲れっス」
黄瀬の労いの言葉に、優乃はペットボトルを片手にはにかんだ。熱気のこもる体育館で呼吸を忘れるほど集中して、頭は少しくらくらする。しかしこの程度、コートで戦っている選手たちに比べればどうということもない。彼らはもっと汗だくで、もっと消耗して、試合に臨んでいるのだ。
中から一旦選手がベンチへ引き上げ、熱気を保ちつつ静寂に包まれたコートかた、優乃は目線をその隣へと向ける。
秀徳対銀望の試合は、既に第二クォーターが始まっていた。パスを受けた宮地が鋭いドライブで敵陣へと切り込む。そのまま二人を躱して、放たれたボールはリングへ吸い込まれた。優乃は思わず小さく拳を握った。
「……ほんと、ズルイっスね」
観客の声援に掻き消えたのは、確かに黄瀬の声だった。優乃は彼に目を向けた。
黄瀬は優乃を見ていた。蜂蜜色の瞳にとらわれる。
「……あ、今何か言った……? ごめんね、聞こえなくて」
黄瀬はふっと瞳を細めた。緩く首を振る彼は、言い掛けた言葉を飲み込んだように見えた。
「優乃っち、秀徳が好きなんだなーって言ったんスよ」
試合終了のブザーが空気を震わす。
正邦対誠凛は、誰もが予想していなかった結果に終わった。
「誠凛が勝ったぞ……?!」
「無名の新設校が王者を破った!」
客席が大いに盛り上がる。
優乃はボールペンの頭を叩いて、ペン先を収納した。自然と唇から零れ落ちるに任せて、言葉を紡ぐ。
「誠凛……すごいな」
「ああ。いいチームになりつつある」
笠松がそれに頷いた。
「ほんと、どんどん力がついてくっスね」
黄瀬は苦笑を浮かべてみせたが、倒すべき相手がどんどん強くなっていくことへの興奮を隠し切れずにいることは誰が見ても明らかだった。
確かに、以前見た海常との練習試合のときと比べて、誠凛はチームとして粗削りながら相当整った形になっていた。優乃は自分の手のひらが再び震え始めたのに気がつく。
誠凛の勝利に沸くコートの隣で、ブザーが鳴り響いた。こちらは大番狂わせもなく、秀徳の圧勝に終わっていた。
決勝は秀徳対誠凛だ。
優乃は、席から立ち上がった。
「優乃っち、行くんスか?」
振り返った先で黄瀬と笠松が優乃を見ている。震え続ける手をきつく握って、笑ってみせた。
「うん。皆さんのマッサージに」
愛しくなる衝動