帝光にいるときからずっと、欲しいものがあった。
欲しくて、欲しくてたまらなくて、たった一粒の雫を求めて広大な砂漠をさまよった。
帝光での三年間は、見渡す限り砂の海だった。歩けば歩くほど砂に足を取られて、体は沈んで動かなくなった。
リノリウムの床を早足で歩く。廊下に反響する自分の足音が聞こえる。他校の選手とすれ違って、橙のジャージが大きく翻った。
一度でも立ち止まれば、恐らく足が竦んでしまう。
優乃は恐怖を抱いていた。
緑間は誠凛に注目している。高尾も興味が出てきたと言っていた。三年生の先輩にとっては、最後のインターハイへの切符を手にするための大一番だ。
優乃の右手の甲には、打ち合わせた固い拳の感触がくっきりと残っていた。
今、優乃の目の前には水があった。しかしそれはいつ零れてなくなってもおかしくないものだった。
一つ深く息を吐いて、優乃は鈍く銀に光るドアノブに手を掛けた。
「お」
真っ先に声を上げたのは、視野の広い高尾だった。こちらを見てくいと口角を吊り上げた高尾を筆頭に、王者然とした雰囲気を醸す彼らへ優乃は笑みを浮かべた。
上手く笑えているかはわからない。しかし笑顔で言いたかった。
「決勝進出、おめでとうございます」
相手が例え中堅校であっても、喜ばしく誇らしい結果だ。優乃の言葉に、宮地と木村がそれぞれ余裕のある表情で応えた。
「おう」
「ありがとな」
大坪も表情を少し和らげつつ、優乃に言った。
「マッサージを頼む、マネージャー」
「はい」
優乃は表情を引き締めて頷いた。一層震えがひどくなる手のひらを後ろ手に隠す。
優乃の顔色がすこぶる悪い。
緊張のためか朝から少し優れなかったが、正邦対誠凛の偵察から帰ってきて、異常に血の気が引いていた。
体調が悪いというわけではなさそうだ。しかし彼の第六感は告げている。体調が悪いよりも、余程悪い状況だってあるのだ。そして彼は、己の第六感がよく当たることを自覚していた。
主将に誠凛の今日のコンディション等の偵察結果を報告して、優乃が控え室から出ていった。後を追おうと立ち上がりかけた彼の広い視界は、静かに立ち上がるチームメイトをとらえた。
緑の瞳は、真っ直ぐに控え室のドアを見ていた。
ここは一つ、元チームメイトに任せるか。
灰色がかった吊り目は少し笑って、閉まるドアの先を見据えた。
愛しくなる衝動